【正論】田久保忠衛 米大統領は指導力発揮できるか

■洞爺湖サミット

 世界の有識者に波紋を広げた米国誌『フォーリン・アフェアーズ』(FA)の2論文を読み通してしばし感慨にふけった。一つはニューズウィーク国際版編集長、ファリード・ザカリア氏の「米支配力の将来=他国の台頭を米国はいかに生き延びるか」である。大きく変化する国際情勢の中で米国が当面する内外の難問を英国の没落と対比する形で論じた彼は、結局いまの米国がかつての英国とは異なる点を挙げ、国際情勢をうまく乗り切っていける筋道を示した。

 もう一つは、この雑誌を発行している米外交問題評議会のリチャード・ハース理事長の「無極時代=米優位のあとに何が到来するか」だ。ザカリア氏同様に彼もまた、21世紀は、一極とか二極とかいくつかの有力な国々に代わって多数の国々がさまざまな権力を行使する構造的な変化が発生しつつあるが、中心となるいくつかの国とこれに協力する多角的な国際組織やNGOなどによって国際秩序の維持は可能だろうと論じている。

 第二次大戦後、複数の強力な国家が二つの極に分かれてイデオロギーの闘争を続けたが、冷戦の崩壊によってイデオロギー、軍事、経済、軍事技術、文化などで抜きんでた米国の一極時代に入ったという点では両者の見解は一致する。ただ、その米国もブッシュ政権第一期でイラクだけでなく軍隊を世界各地に拡散して配備し、経済は一向に安定せず、政治は大きな判断を下せない状況が続いている。

≪レイムダックではない≫

 そこにEU(欧州連合)、中国、ロシア、インドが政治、経済のプレーヤーとして参入し、イランは中東の核保有国の道を走る。となると米国の地位は相対的にも低下せざるを得ない。FA誌は国際情勢が大きく変わりつつある現実を先取りして二大論文を掲げたのだろう。

 冷戦終結4年前の昭和62年、米国ではエール大学歴史学教授のポール・M・ケネディ氏が『大国の興亡』を、平成元年にはランド研究所のフランシス・フクヤマ氏が『歴史の終わり』をそれぞれ執筆、世界中の話題となった。ケネディ氏はこの著作を出す直前にワシントンのウッドロー・ウィルソン国際学術研究所で20世紀初頭の英国の事情が、どれだけ当時の米国に酷似しているかを説いて満場の聴衆をうならせた。自国の運命に関する新説に米国の政治家はとりわけ異常な関心を寄せた。

 北海道洞爺湖サミットに出席するブッシュ大統領の念頭からFA誌論文の指摘は去らないだろう。自国の将来、温暖化対策、エネルギー戦略が無縁のはずがない。支持率低下が止まらない、レイムダックの政治家だ、などとの俗論をテレビや新聞でよく見受けるが、これは間違っていると思う。

 第一期のイラク攻撃を契機に亀裂を生んだ欧州との関係を修復した。6月の訪欧でブラウン英首相から「(英国は)イラクからの一方的な撤退表明はしない」、サルコジ仏大統領から「アフガニスタンに追加派兵する」との確約を取りつけた。イラクの治安は安定し、マリキ首相の指導力で国内シーア派のマハディ派も鎮圧された。ベトナム式泥沼化は起こらず、アルカーイダは深手を負っているではないか。

≪温暖化で強まる国内圧力≫

 地球温暖化対策では、一貫して熱心なマケイン上院議員、環境問題の先駆者的存在であるゴア元副大統領の支持を取りつけたオバマ上院議員という共和、民主両党大統領候補などからの圧力を受けているブッシュ大統領は、サミットの場で強烈な発言をするだろう。中国やインドなどCO2の主要排出国が温暖化に非協力的だと非を鳴らしてきた手前、米国は一歩踏み出す態度を示すかもしれないが、それは、日本で好評の「地球愛」に基づくものではないと思う。

 マケイン議員は6月19日、平成42年までに45基、最終的には100基の原子炉を建設する考えを明らかにした。「中国、ロシア、インドの3国は数十年前に100基以上を建設する計画を立てているが、米国は昭和54年のスリーマイル島の原子炉事故以来、何もしていない」と説明した。国益を懸けたエネルギー政策と温暖化対策は整合している。

 「福田ビジョン」で50年までに温室効果ガスの60〜80%の排出削減を目指すと日本政府は揚言したが、日本のエネルギーを原子力と自然エネルギーに大転換する覚悟はあるのか。世界の動向、その中で自国の置かれた位置を確定し、大会議を仕切るにはその場しのぎの数字やパフォーマンスではとうてい無理だろう。(たくぼ ただえ=杏林大学客員教授)

20/07/04 06:45

【正論】田久保忠衛 米大統領は指導力発揮できるか

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【2008/07/04 05:00】 | 政治 行政 立法 | トラックバック(0) | コメント(0)
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