エスカレーターは歩く物には非ず

 10日ほど前の小欄で、「出羽守」という言葉を使ったところ、どういう意味かと、読者のみなさんから問い合わせがあった。アメリカでは、などと主に欧米諸国を引き合いに出して、日本批判を展開する人のことをいう。

▼ エスカレーターを利用するとき、右側に立ち、左側を開けるという大阪の習慣は、昭和45年の大阪万博で始まったという説がある。欧米からの来訪者のために、ロンドンやニューヨークで見られる光景に倣おう。そんな「出羽守」的発想だったらしい。

▼ その後東京にも伝わったが、なぜか左側に立ち、右側を開ける逆の乗り方になった。ともかく、先を急ぐ人のために、片方のステップを開ける習慣は、マナーとして定着していった。それを守らない人をとがめる意見を、小紙でも見かけたことがある。

▼ 25日付談話室に載った体験談で、徳永清さん(74)を怒鳴った若い男もそう信じていたに違いない。品川区に住む徳永さんは、左半身不全まひの障害のため、“東京ルール”に従うことができず、右手でベルトをつかんでいた。そのことを説明して、「急ぐなら階段を」と話すと、男は逃げるように去ったという。

▼ 実はエスカレーターのメーカーも、「歩行は危険」の立場だ。作家の山口瞳が、かけこみ乗車についてこんな言葉を残している。「人生というものは短いものだ。あっという間に年月が過ぎ去ってしまう。しかし、同時に、どうしてもあの電車に乗らなければならないほどに短くはないよ。…それに第一、みっともないじゃないか。」

▼ エスカレーターを駆け上がるのは、合理的な習慣なのか、それともみっともないのか。出羽守に頼らず、日本独自のマナーづくりを考えるときではないか。

20/06/30 09:43

【産経抄】6月30日

テーマ:産経新聞 - ジャンル:ニュース

【2008/06/30 05:00】 | 日本 歴史 伝統 文化 | トラックバック(0) | コメント(0)
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