米と魚を食べよう

 「海の男」には、昔から信心深い人が多い。漁船内に安置してある船霊(ふなだま)のご神体に、炊きたてのごはんやお神酒、生魚などを供える。大漁を感謝して、魚の血を船霊に塗りつける。他の船が漁を呼び込むために、それを盗み出すこともある。

▼ 地域によって信仰の形は違うが、大漁と航海安全という切実な願いは共通している(『カツオの産業と文化』若林良和著)。カツオは江戸時代に入って、旬の味として武家や町民に珍重されるようになった。人力と風に動力を頼っていた当時の和船は、大時化(しけ)の前に無力だった。

▼ 弘化4年6月には、三陸沖で70艘以上のカツオ船が漂流し、500人近い犠牲者が出た記録が残っている。明治の終わりごろから、石油発動機を備え付けた漁船の開発が相次ぎ、現在の大型のカツオ漁船は、さまざまな航海機器を備えたハイテク漁船だ。

▼ それでも、千葉県犬吠埼東方約350キロ沖で起きた、巻き網漁船「第58寿和丸」の転覆事故は防げなかった。行方不明者の捜索は難航している。死亡した甲板長(44)は、小学2年の長男と2歳の長女の父親で、子供部屋を増築したばかり。長男は「お刺し身になるお魚をたくさん取ってきて」と送り出したという。

▼ 強風にもかかわらず第58寿和丸が、福島県いわき市の小名浜漁港に帰らなかったのはなぜか。船を所有する会社の社長は、燃料代を節約するためだったのではないか、とみる。「全国漁業協同組合連合会」によると、燃料代は5年前の2・7倍に上る。

▼ 来月には全国の主要漁業団体が一斉に休漁する。世界を大混乱に陥れている原油価格の高騰は、「海の男」の命まで脅かし始めた。船霊よ、この怪物をなんとか鎮める方法はないものか。

20/06/26 05:03

【産経抄】6月26日

テーマ:産経新聞 - ジャンル:ニュース

【2008/06/26 05:00】 | 経済 産業 資源 交通 | トラックバック(0) | コメント(0)
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