【正論】森隆夫 「育自学」として親学の再生を
■ 親の育児力不足は大人の幼児化

≪社会的寄生虫の増加≫

 地球も変だが人間もおかしくなった。鬱病が増え、自殺も年間3万人にもなったという。それに社会のあらゆる分野で毎日のように起きている事件や不祥事、これをなんとみる。

 文明の進歩は「文明=便利=依存」というわけで人間の依存心を増大させた。さらに幼児の生活は親に依存せざるを得ないから仕方がないとしても、長じても親に代わる便利な生活が待ち受けているから、生涯依存の中にドップリと漬かっていることになり、幼児性(依存心)から脱皮できない大人が増えてくる。

 K・ローレンツ(ノーベル賞受賞者、動物行動学者)がこうした幼児性を残した人間を「社会的寄生虫」「大人の幼児化」といってから30年以上もたつ。30年といえば「一世代」であるから、現代は「幼児化した大人」が子供の教育に当たっていることになる。

 社会的寄生虫の特徴は社会的行動規範の成熟遅滞と自己責任の欠如にあるから、ニートも無責任という点ではこの部類に入るかもしれない。いや、それよりも近年教育界に登場した「怪物親(モンスターペアレント)」の方が問題である。それは、理不尽・無責任・非常識で身勝手な苦情を学校にぶつけてくる親を指す。例えば、なぜわが子が集合写真の中央にいないのか、と抗議してくるとか、給食費、保育料、高校の授業料を納めないなどである。

≪人生最初の教師である親≫

 こうなると親に対する教育が必要ということになるのに教育再生会議では「親学」の必要性についての記述がトーンダウンした。残念なことである。そこで親学の再生のために2つのことを提案したい。

 第1は、親学を「育児のための育自学」として再生を図ることである。

 第2は「学」というからには「史・論・策」について思考の輪を広げておくことである。

 第1については、およそ教育はすべて「模倣」に始まるのだから親としては「模範」を示さなければならないことを自覚し実行させることである。ことわざにあるとおり「どんな悪い親でもわが子だけは良く育って欲しい」と思っている。だから良い子供の模範になるべきだ、と教える親学が必要なのである。

 第2は「学」というからには歴史、理論、政策が三位一体でなければならないということである。「史」としては例えば、17、18世紀のドイツ、オーストリアの貴族には「家父学」という「親の心得」にあたるものがあった(赤塚行雄『家父学のすすめ』)。わが国でも、貝原益軒『和俗童子訓』、山鹿素行『父子道』、植木枝盛『親子論』、林子平『父兄訓』などが、その他「庭訓(ていきん)」(家庭教育論)の研究が教育史の分野にみられる。

 「論」としては、原理、原則、総論のことだが、その基礎は親の「責任論」で、法的責任は民法に、教育的責任は「人生最初の教師」としての親の役割について敷衍(ふえん)することである。

 「策」とは具体的方策の提示だが、それを単に羅列するから批判されるのである。何事も原点、基礎から提起すべきなのである。筆者も委員として参加していた教育改革国民会議では、家庭に「心の庭」をつくるとか、各家庭でそれぞれ「しつけ3原則」をつくるようにといったように、上からの訓示でなく、親の自主性、自覚にまつように誘導している。

≪家庭の教えで「芽」を出す≫

 いずれにしても家庭は教育の「原点」であり、「出発点」(教育改革国民会議では家庭を17の提案の第1に掲げている)なのだから、再生会議でも、家庭や親学を第1に挙げなければ「実」は成らないだろう。そのことを「家庭心得」としてわかりやすく各家庭に配布した明治の頃の文書を紹介しておく。

 「拝啓、諺にも教育の道は、家庭の教へで芽を出し、学校の教へで花が咲き、世間の教へで、実が成ると申す程にて有之候へば、学校と家庭とは、常に相一致し、同じ方向に相進み…略…朝夕深く御注意成下され度候也」(明治31年、埼玉県幡羅高等小学校)

 ところが教育論といえば、一般に学校で「花」を咲かせることや、世間(社会)で「実」が成ることのみに腐心しているが、その前に家庭の「芽」にこそ目を向けるべきなのである。教員の指導力不足と同時に親の育児力不足対策を考える、それが「育児のための育自学」であり、親学なのである。親学の再生をこそ期待したい。(もり たかお)

(19/07/22 06:07)

【正論】日本教育文化研究所所長・森隆夫 「育自学」として親学の再生を

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【2007/07/22 05:00】 | 教育 学問 | トラックバック(0) | コメント(0)
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