【主張】調査捕鯨妨害 立件こそ最大の抑止策だ

 南極海での日本の調査捕鯨船に対する米環境保護団体シー・シェパード(SS)による妨害行為について、日本の捜査当局は実行犯として米国籍と英国籍の男計3人を特定、威力業務妨害容疑で逮捕状を取った。

 ロープを海中に投下してスクリューに絡ませたり、抗議船で体当たりしたりするなど、妨害はテロ・海賊行為にも等しい。国際条約にも明らかに違反している。日本として断固たる措置に出るのは当然のことである。

 日本などの捕鯨国と米国や豪州など反捕鯨国との間には、鯨をめぐる文化の違いから根深い摩擦があるのは事実だ。しかし、日本の調査捕鯨は鯨類の資源量などを研究するデータ収集が主目的であって、なにより国際捕鯨取締条約に基づいた正当な活動であることを忘れてはならない。

 ところがSSは、この事実や再三にわたる日本の事前警告をことごとく無視し、抗議と称して過激な妨害活動を続けてきた。調査捕鯨船団の乗組員をねらって発煙筒や薬品入りのビンを投げつけ、負傷させるという常軌を逸した悪質極まりない行為もあった。

 町村信孝官房長官は「いかなる主張があるにせよ、物理的な妨害によって生命の危険を脅かされる事態は許されない」と強調した。正論といえよう。

 反捕鯨国を含め、国際社会はSSの過激な行動には厳しい目を向けている。国際捕鯨委員会(IWC)も事件後のことし3月、非難の声明を採択している。

 今回の容疑者特定には、日本の捜査共助要請に対する関係国の協力が不可欠だった。米英両国とも反捕鯨の立場にはあるが、捕鯨への賛否と暴力による妨害行為の是非は峻別して考えるべきだとする判断があったからだろう。

 日本の捜査当局は国外犯として国際刑事警察機構(ICPO)を通じ、3人を国際手配する方針である。だが実際の容疑者逮捕など立件については実効性に疑問の声も少なからず聞かれる。

 政府として、今後も捕鯨への理解形成に最大限の努力を続ける必要があることはもちろんだ。同時に、関係国に対しても犯罪人引渡条約の有無にかかわらず、毅然と容疑者の身柄拘束、日本への引き渡しを求めるべきだろう。

 それこそが、危険な妨害行為に対する何よりも強力な再発抑止策につながるはずだ。

20/08/19 05:43

【主張】調査捕鯨妨害 立件こそ最大の抑止策だ

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【2008/08/19 05:00】 | 事件 犯罪 司法 | トラックバック(0) | コメント(0)
【主張】ODA汚職 公正さをゆがめる取引だ

 現地の高官にリベートを渡さなければ、事業を受注できないという、海外での「あしき商慣行」を突き崩す契機にしなければならない。

 ベトナムでの政府開発援助(ODA)にからむ汚職事件で、東京地検特捜部は、ホーチミン市の局長級幹部に約9000万円のわいろを贈っていた建設コンサルタント大手の「パシフィックコンサルタンツインターナショナル」(PCI)の前社長ら幹部4人を不正競争防止法違反容疑で逮捕し、強制捜査に乗り出した。

 ODAをめぐっては、以前から公然とわいろ工作が行われていると指摘されていたが、捜査当局が海外での金品授受を摘発したのは初めてで、その意義は大きい。特捜部には、途上国へのODA事業に対し、日本企業がどのような工作を行っているのか、その実態を徹底的に解明してもらいたい。

 事件の舞台は、ホーチミン市内の高速道路建設事業で、PCIはこのうちの約30億円のコンサルタント業務を受注した。

 その際、受注業務に強い権限を持つとされる同市の局長級幹部からリベート提供の要求があり、PCIの前社長らは、受注への見返りとして巨額の現金を提供した疑いが持たれている。

 外国の公務員への贈賄については、平成9年に日本を含む経済協力開発機構(OECD)加盟国などが防止条約を締結し、日本もそれに伴い不正競争防止法を改正、国内の法を整備した。

 ところが、日本の捜査当局が同法を適用し立件したのは福岡区検が昨年、フィリピン高官2人にゴルフセットを贈った九電工元幹部らを略式起訴(罰金刑)した1件だけである。

 米国はすでに100件以上を摘発している。このため、OECDは「日本は外国への贈賄工作を野放しにしている」と強く批判し、摘発強化を勧告していた。

 今回の捜査は、このような国際的要請に応える観点からも必要かつ不可欠だった。公正さと透明性ある取引が求められる。

 PCI事件を機に、企業側も意識を改革しなければならない。受注の見返りに金品を提供する商習慣との決別が大事だ。外国政府高官へのわいろ提供は、結果的にその国の腐敗を助長し、ひいては日本の国際的信頼も大きく失墜させる。外務省など政府機関の厳正なチェックもより大切である。

20/08/06 07:45

【主張】ODA汚職 公正さをゆがめる取引だ

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【2008/08/06 05:00】 | 事件 犯罪 司法 | トラックバック(0) | コメント(0)
【主張】秋山理事逮捕 防衛利権の根幹にメスを

 東京地検特捜部は、社団法人「日米平和・文化交流協会」の秋山直紀専務理事を所得税法違反(脱税)の疑いで逮捕した。秋山容疑者は日米の防衛関連企業と政官界をつなぐ「フィクサー」と評されている。

 容疑は、防衛関連メーカーなどから受けたコンサルタント料のうち、約2億3200万円の個人所得を隠し、約7400万円を脱税したものだ。日米のパイプ役の影響力が多額の利益を生み出す防衛利権の一端を示している。捜査当局は厳正かつ徹底的に事件の全容を解明し、ウミを出し切ってもらいたい。

 同協会は久間章生元防衛相ら防衛族議員が理事を務めている。秋山容疑者は毎年、そうした議員と渡米するなどして、防衛産業への影響力を強めた。久間氏は秋山容疑者から政界に資金が流れたことはないと語った。政界の関与の有無についても議員自らが立証すべきだろう。疑惑を中途半端のかたちで放置してはなるまい。

 今回の事件は、守屋武昌前防衛事務次官の収賄摘発から発展した。昨年11月、業務上横領容疑で山田洋行元専務の宮崎元伸被告を逮捕したことが発端だ。宮崎被告は国会で、コンサルタント料として毎年10万ドルを秋山容疑者側に支出していたことを明かした。

 守屋事件などはいずれも防衛装備品をめぐる汚職事件であり、その都度、再発防止策が出されるが、不祥事はなくならない。

 平成10年には防衛庁調達実施本部の収賄・背任事件(調本事件)で元本部長らが水増し請求などにより逮捕された。調本を廃止するなどしたが、それ以降も防衛施設庁談合事件や前記事件が続発している。構造的な問題があることを指摘しておきたい。

 最大の問題は、防衛産業の水増し請求である。自衛隊の高級幹部は定年後、防衛関連の企業顧問に天下りする。多くは企業への貢献以上の報酬を受け取る。企業はその差額分を出身母体の防衛省に求め、水増し請求を行う。国民の税金が、不正の温床に注ぎ込まれている。これは許されない。高級幹部の厚遇は自衛官の士気に影響しかねないとして常態化されてきたが、定年制の在り方を含め、抜本的な見直しが必要である。

 防衛省・自衛隊は今回の秋山容疑者逮捕の背景にまで踏み込んで、自浄努力を示し、国民の信頼回復に全力を尽くしてほしい。

20/07/27 06:39

【主張】秋山理事逮捕 防衛利権の根幹にメスを

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【2008/07/27 05:00】 | 事件 犯罪 司法 | トラックバック(0) | コメント(0)
【主張】ライブドア判決 規範の重み再確認したい

 粉飾決算など証券取引法違反の罪に問われたライブドアの元社長、堀江貴文被告に対する控訴審判決で、東京高裁は被告側の控訴を棄却、1審の懲役2年6月の実刑判決を支持した。

 無罪を主張し、執行猶予のつかない実刑判決を不当などとした被告側の訴えは退けられたのである。堀江被告が提出した「株式市場に対する不信を招き、悔やんでも悔やみきれない」などとする上申書も「犯行についての反省の情はうかがわれない」と一蹴された。

 高裁の判断は妥当であり、この事件が市場に与えた影響の深刻さを物語っているといえる。

 ライブドアの旧経営陣は「友達感覚」で会社を経営し、株価をつり上げるため、まるでコンピューターゲームをしているかのように、法やルールの不備をみつけ、そこにつけ込むことに躍起になっていた。

 そこには、上場企業の経営者としての株主に対する責任感はまったく見えない。

 こうした行動は、一般の個人投資家を投機に走らせ、市場をゆがめた。ITベンチャー企業の旗手と持ち上げられた反動もあって、その転落は新興企業全体の信用を傷つけた。

 規制緩和・廃止という流れの中で企業経営の自由度が広がれば、より厳しい自己規律がトップに要求されるのはいうまでもない。

 しかし、「法に触れなければ何をしてもかまわない」という発言に象徴される通り、堀江被告にはこの重要な部分が欠けていた。高裁判決が「被告人の規範意識は薄弱」と断じた通りである。こうした企業経営が横行すれば、再び規制強化論が勢いを増しかねないだけに、これは重要な指摘だ。

 量刑も、「成長を仮装した粉飾」は損失隠し目的よりも結果は大きいとし、弁護側の不当に重いという意見を退けたのも、粉飾発覚時の投資家の損失の大きさを考慮すれば、妥当であろう。

 それにしても、不正会計、食品の産地偽装、高級料亭の食べ残し・使い回しなど企業不祥事が後を絶たない。そこにライブドア旧経営陣に通じる法令順守精神の欠落、規範意識の低さが見えるのはどうしたことか。

 控訴審判決が投げかけた深刻な論点は、堀江被告だけでなく、すべての企業経営者が真剣に受け止めなければならない。

20/07/26 05:06

【主張】ライブドア判決 規範の重み再確認したい

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【2008/07/26 05:00】 | 事件 犯罪 司法 | トラックバック(0) | コメント(0)
峻しき生命の坂路も君が愛の炬火心にたよれば

 詩人の中村稔さんによると、「愛」という言葉を使い、「愛」を主題にした詩を書いた、わが国における最初の詩人は、石川啄木だという(『人間に関する断章』)。

▼ たとえば、明治38年、20歳の啄木が出した処女詩集『あこがれ』に収められた「人に捧ぐ」は、こんなふうに結ばれる。「峻(こご)しき生命の坂路も、君が愛の/炬火(たいまつ)心にたよれば、黯(くら)き空に/雲間も星行く如くぞ安らかなる。」。

▼ けわしい人生の坂道を登るときも、あなたの愛を松明にして、心のたよりにすれば、暗い空の雲の間に星を見るように、心が安らかだ、というのだ。この詩を捧げた、妻の節子との愛の結末が、悲惨なものになるのは周知の通りだ。

▼ それでも「愛」は、小説や詩、流行歌などで盛んに使われるようになり、日本人にとってなくてはならない言葉となっていく。最近では、子供、特に女の子の名前につけられることが多い。東京都八王子市の駅ビルの書店で、アルバイトをしていて、凶刃に倒れた中央大学文学部4年生の斉木さん(22)の名前も愛だった。

▼ 「仕事がうまくいかない」「誰でもよかった」。33歳の容疑者の男の身勝手な言い分には、耳をふさぎたくなる。「社会にも問題がある」式の報道で、通り魔を甘やかしているかぎり、同様の事件は続くのではないか。

▼ 斉木さんの名前は、「あい」ではなく、「まな」と読ませる。『大辞林』によれば、かわいい子、いとしい女のこと。娘や弟子など、人を表す名詞につくと、特別にかわいがっているという意味になる。ご両親にとって、掌中の珠だったのだろう。就職も決まり、これからさまざまな愛に出会うはずだった。その機会を奪われる理由など何ひとつなかったのに。

20/07/24 04:51

【産経抄】7月24日

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【2008/07/24 05:00】 | 事件 犯罪 司法 | トラックバック(0) | コメント(0)
支那バス爆破 安全と人権の両方を守れ

 中国雲南省の昆明市中心部で路線バスの連続爆破事件が起き、多数の死傷者が出た。当局は「人為的な破壊事件」と断定しており、テロの可能性が高い。このところ各地で破壊活動や暴動が頻発しているだけに、北京五輪を無事開催できるかにも懸念が高まっている。

 中国政府が五輪の安全を保障することは開催国としての最低限の義務であり、万全を期してもらいたい。同時に五輪を理由に少数民族や農民など弱者への締め付けを強めることがあってはならない。北京に集う国内外の人々の安全と人権の両方を守れなければ、五輪の成功はおぼつかない。

 昆明市の連続爆破事件については2つの可能性が考えられる。第1に地元の政治、社会問題に不満を持つ集団による地元当局への破壊活動だ。次に新疆ウイグル自治区の独立をめざす東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)などの組織が北京五輪の破壊を狙って起こしたテロの可能性である。

 後者なら五輪に向けて各地で同様のテロ活動を展開する懸念もあるが、今のところ前者との見方が多い。最近、地方政府・幹部に対する民衆の抗議・暴動が相次いでいるためだ。バスの爆破事件に限っても、2月の湖南省瀏陽市に続き、5月には上海市、浙江省温州市で起きている。

 地方幹部の腐敗・専横、農地の強制収用、環境破壊、所得格差拡大など、暴動やテロの種は尽きない。大規模暴動は21世紀に入り急増を続け、平成17年に8万7000件に上った。増えすぎてその後は当局が件数を公表しなくなった。

 チベットや新疆の民族独立運動や地方の暴動が多発する現在の中国に「五輪を開催するに十分な条件を備えているか」との疑問はいまも根強い。

 胡錦濤政権は「調和のとれた社会」と「平和発展」を旗印に、北京五輪を国民結束のシンボルとしてきた。だが現実は暴動多発と圧政強化の悪循環に陥っている。幹部の腐敗や悪政を訴えるため上京した多くの農民が、身柄を拘束されている。3月のチベット騒乱後再開したチベット亡命政府との対話も目立った進展はない。

 五輪を真に成功させるには北京の安全確保はもちろん、自由・民主・人権の普遍的価値観に沿って外国人や国民を遇することだ。それなしでは「五輪開催は早すぎた」とのそしりを免れまい。

20/07/23 05:03

【主張】中国バス爆破 安全と人権の両方を守れ

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【2008/07/23 05:00】 | 事件 犯罪 司法 | トラックバック(0) | コメント(0)
好きな人は胸の中にそっと大事にしておくんだ

 14歳の君へ。新聞の社会面の見出しに「14歳」とあると、大人はドキッとしてしまう。11年前、「酒鬼薔薇聖斗」と名乗った14歳の少年が、神戸で次々に小学生を殺傷してからだ。だからけが人が1人も出なくてほっとした。

▼ とはいえ、運転手の首にナイフを突きつけてバスを乗っ取るなんて、きわめて悪質な犯罪だ。解放されるまで、乗客は生きた心地がしなかったろう。報道によると、中学2年の君は学級委員を務め、勉強やクラブ活動にもがんばっているそうだ。

▼ その君が警察の取り調べに対して、「親にしかられ、嫌がらせのためにやった」などと話している。好きな女の子と交際するために、友人からお金を借りようとして、親に注意されたそうだね。もしそれが犯行の動機だとすれば、甘ったれるのもいいかげんにしてほしい。

▼ 14歳といえば、大人への入り口にさしかかっている年齢だ。昔なら、もうすぐ元服、ほんの数十年前までは、中学を出たらすぐ社会に出て、仕事に就くことも珍しくなかった。君の周りを見回してごらん。学校生活だけでは飽き足りず、文学に目覚め、あるいは環境問題など、社会に目を向け始めた友達がいるはずだ。

▼ 書店に行けば、「14歳の」と銘打った哲学、政治、心理学の本が並んでいるよ。女の子にかまけて、何も見えなくなっている君には、『恋愛なんかやめておけ』(松田道雄著)という本のなかの、一節を贈りたい。

▼ 「好きな人は胸のなかに、そっとだいじにしておくんだ。それは二十年たち、三十年たつと、たくわえた古酒のようになる。たかい香りで、少年の日、少女の日の記憶をつつみこんでくれるだろう」。君の今やるべきことは、世間を騒がすことなんかじゃないんだよ。

20/07/18 06:33

【産経抄】7月18日

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【主張】教員採用汚職 身内に甘い体質断ち切れ

 大分県の教員採用をめぐる汚職事件が発覚し、県教育委員会の幹部らが逮捕された。優れた人材を選考すべき採用試験をゆがめる行為であり、断じて許し難い。

 逮捕されたのは、いずれも教育関係者だ。女性小学校長が長男、長女を採用試験に合格させるため、現金や商品券を県教委参事に贈った。

 当初は仲介役として逮捕された小学校教頭夫婦もまた、長女を合格させるため、同様に商品券をわいろにしていた。

 教育者が金品を使ってわが子を教員にしようとは、にわかには信じ難い話だ。

 事件は、県教委ナンバー2の教育審議監だった同県由布市教育長が逮捕される事態になっている。この元教育審議監は、在職当時、採用の実務を担当する部下の参事に不正を指示していた。

 逮捕容疑以外にも複数の受験者から依頼を受けていたとみられ、点数を水増しするなど改竄した疑いもでている。

 一部の県教委幹部が合否を左右できるような選考方法自体が問題だ。県教委には再発防止へ徹底した調査が求められる。

 教員採用は、東京、大阪など大都市圏では、大量採用した団塊の世代が退職期を迎え、広き門になってはいる。

 しかし、民間就職口が限られる地方では教員の人気は高く、社会的地位もある。平成19年度の小学校の教員採用試験の倍率をみると、全国平均4・6倍に対し、大分県は約12倍だ。

 教員採用試験は筆記試験のほか、面接や実技により合否判定される。だが配点や評価基準を公表している教委は少ない。このため大分県の事件に限らず、教員採用をめぐっては「コネが必要」など縁故採用のうわさが絶えない。身内に甘く、閉鎖的な教育界の体質への不信感は根深い。

 校長、教頭など管理職試験の問題が教育委員会の身内から漏れる事件も起きている。

 公教育改革では教員の資質向上が欠かせない。採用試験では模擬授業など実技やボランティア経験を選考に加えるなど工夫もみられる。教育委員会によっては採用試験の面接官に外部から民間人を加えるなどの動きもある。

 今回の事件は、こうした改革にも逆行しており、教育への信頼を損なうものだ。教育界全体として反省を促したい。

20/07/08 05:02

【主張】教員採用汚職 身内に甘い体質断ち切れ

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「暴力団員を殺しても無罪」と言ふ法律を作つたら

 仕事柄図書館を利用することが多いが、最近利用者がささいなことで職員にくってかかる光景が気にかかる。地方自治体の窓口でも大声をあげたり、暴力を振るう行為が相次いでいるらしい。

▼ 特に暴力団などが、行政機関や職員に不当な要求を突きつける動きが目立つ。いわゆる「行政対象暴力」だ。平成13年に栃木県鹿沼市の職員、小佐々守さん=当時(57)=が、暴力団関係者に拉致され、殺害された事件をきっかけに、社会的に注目されるようになった。

▼ 事件の背景には、公正な廃棄物行政を進める小佐々さんと、不正を指摘された処理業者との対立があった。多くの職員が、事件の中心人物とみられる処理業者と鹿沼市との長年にわたる癒着を知りながら、見て見ぬふりをしていたことも明らかになった。

▼ 組織が一体とならなければ、行政対象暴力には対処できない。この教訓を果たして、全国の地方自治体は胸に深く刻みつけたのだろうか。埼玉県深谷市に住む夫婦が、生活保護費の不正受給の疑いで逮捕された事件をみれば、はなはだ疑わしい。

▼ 元暴力団員の夫が、職員に怒鳴ったり、ライターや電話の子機を投げつけたりしていたというのに、市はなんの対策もとらなかった。それどころか、6年前から計約2000万円をこの夫婦に支払ってきた。もっとも北海道滝川市の気前のよさにはかなわない。やはり元暴力団員とその妻に、支給してきた生活保護費は計約2億円にも上る。

▼ 「だまされた」と、いずれの市も被害者の立場をとっていることに、納得がいかない。不正に気づいていたはずの職員を、組織として支える覚悟が、市のトップになかっただけのこと。これでは、たった一人で戦った小佐々さんは浮かばれない。

20/07/03 06:00

【産経抄】7月3日

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【正論】加藤尚武 秋葉原事件と高校教育の陥穽

≪「自尊心」を欠く犯罪≫

 6月8日の通り魔殺人事件は7人の命を奪い、10人の負傷者を出すという悲惨な結果を生み出した。「誰でもいいから殺す」という無差別殺人の場合、動機の解明や犯行時の精神状態を明らかにして刑事事件としての立証をしても、そもそも刑事罰の有効性が成り立たないので、犯罪の一般予防という観点から見ると刑罰以外の対処をも視野に入れなくてはならない。

 犯人(25歳)の生い立ちや性格についても十分な調査をする必要があるが、実際には、生い立ちを調べることは両親や兄弟のプライバシー保護と抵触するし、そのような調査をする権限をもつ公的な機関が存在しない。

 非行をする少年や若い犯罪者について、規範やルールの認識が欠けているという判断を下す人が多いが、たいていの場合非行や犯罪には「悪いことだと分かっているからこそ、あえて行う」という挑戦的態度が見られる。

 秋葉原の通り魔殺人の犯人に関しても、世間から激しい非難を浴びるような行為をわざと選んだように思われる。彼の動機に、親に対する復讐という要素があったと指摘する人が多い。ほとんど自殺に限りなく近い形で、自分を破滅させるという行為には、何よりもまず「自分を大切に思う気持ち」(自己評価、自尊心)が欠けている。若い犯罪者に欠けているのは、たいていの場合、規範意識ではなくて、自尊心である。

≪共同選果場化した現場≫

 日本の県立高校は、工業・農業・商業という実業高校は統廃合によって、普通制高校に変わっていく、男女別学が男女共学に変わっていくという過程を通じて、特色のはっきり分からない普通制高等学校が並立しているという状況になっている。

 学校の違いは、入試の点数によって、明確に分かれる。AクラスからEクラスぐらいまでに分かれる。エリートから外れた高校に通う者が3年間に身につけるものは、まずEクラスとか、Dクラスとかのレッテルを張られているという屈辱感に耐えることである。

 Eクラスとか、Dクラスの高校では、雨の日の朝は生徒の表情が少し明るいといわれる。社会的なレッテルをあらわす制服をレインコートで包むことが許されるからだ。

 高等学校の共同選果場体制化は、少子化による学校統廃合と受験の圧力という教育に固有の事情から生まれていったのだが、それが現在では、若者の就職先が、正規雇用型と派遣型に分かれるという社会的な変化にぴったりはめ込まれたようになっている。

 エリート校の受験体制に乗り込むよりほかに、自分の努力によって自分の未来を切り開く余地が実際にほとんど存在しないことに多くの若者は気づいている。

 エリート校に進めば、そこは大学受験のためのもっとも効率のよい修練場である。たとえば歴史の教科書でカントという人物名を見たら、カントについての3行程度の記述を完全に記憶しなくてはならない。カントの著作を読んでみるというような無駄は許されない。彼らが大学に入ってきたとき、「受験に必要な知識」という型にはまった知識以外には、脳の中には何もない状態になっている。

≪落ちてはならぬコンベヤー≫

 エリート校の出身者が、大学院に進むまでに受験後遺症を払拭して、のびのびとした独創的な発想力を身につけるのは難しい。秀才ではあるが、研究者としては二流以下の若者が大学院にあふれかえっている。

 秋葉原の殺人犯は、絶対に落ちてはならないコンベヤーベルトから落ちたのだ。そして彼の攻撃的な精神にはたえられないDクラス、Eクラスの屈辱を背負って生きる以外に自分の可能性がないことに直面していた。彼の犯行は、共同選果場体制から、たまたま落ちこぼれたいびつな林檎の悲劇だったのではないだろうか。

 高等学校の共同選果場体制は、日本の若者から気力と創造力を奪っている。高等学校は、自分を大事にするという気持ちを他人と共有し合うこと、人間としての深さ、他人に対処する姿勢を芸術や文化の深さに触れることで養うなど、人間としての成長の期間でなければならないのに、選別のためのたんなるコンベヤーベルトと化している。

 その責任の一端は、大学の側が生み出してきた入試体制そのものにある。現行の入試では1点でも多くの点数をとれば有利になる。一定以上の点数をとれば合格の必要条件を満たすという方式も検討すべきだ。

 将来の日本が、人材の豊かさを誇ることができるようにするためには、高等学校の共同選果場体制を解消するという課題に取り組まなくてはならない。(かとう ひさたけ=京都大学名誉教授)

20/06/30 06:25

【正論】加藤尚武 秋葉原事件と高校教育の陥穽

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【2008/06/30 05:00】 | 事件 犯罪 司法 | トラックバック(0) | コメント(0)
【主張】ウナギ偽装 どこまで消費者欺くのか

 中国産ウナギを人気の高い国産ブランドに偽装表示して出荷していた水産物輸出入業者と、そのウナギを販売していた水産業者が農林水産省から日本農林規格法に基づく改善を指示された。警察当局も社長や社員から事情聴取を始めた。

 食品の偽装表示は消費者に対する裏切り行為で、食の安全性にかかわる重大な問題だ。

 2社とも偽装を認めている。行政は徹底して食品業界を指導する必要がある。警察の捜査により全容を解明し、犯罪行為が明白になれば、厳しく処罰することを求めたい。

 2社は「魚秀」(大阪市)と水産業最大手のマルハニチロホールディングスの子会社「神港魚類」(神戸市)だ。

 偽装の手口は巧妙だった。魚秀は中国産ウナギのかば焼きに実在しない愛知県岡崎市一色町の架空会社を製造者としたラベルを張っていた。有名な「一色ウナギ」の産地の愛知県一色町と紛らわしい地名を使用していた。

 しかも魚秀の中谷彰宏社長は、神港魚類の担当社員に口止め工作とみられる現金1000万円を渡していた。農水省の調査を受けた後には、担当社員は魚秀の幹部から「全部(偽装の責任を)かぶってくれ」「1億円出すから」と重ねて要請されていたともいう。

 中谷社長は「(殺虫剤が混入した)中国製冷凍ギョーザ事件で中国産ウナギの売れ行きが不振になり、数億円分の中国産ウナギの在庫をさばきたかった」と偽装表示の動機を語っている。

 食の不正は後を絶たない。昨年1月に不二家で消費期限切れの牛乳の使用が発覚してから、「白い恋人」と続き、10月には安い豚肉や鶏肉を混ぜたひき肉を「牛肉100%」と偽って販売、不当競争防止法違反(虚偽表示)容疑で北海道苫小牧市の「ミートホープ」の元社長らが逮捕された。

 「赤福餅」の製造日偽装もあり、大阪の料亭「船場吉兆」も牛肉の産地偽装や料理の使い回しが発覚し、大きな非難を受けた。

 今回はそうした偽装が報道され、批判を浴びた後のことで、食品業者としての自覚が全く感じられない。その意味でも極めて悪質と言わざるを得ない。

 食品業界には今一度、不正をなくす決意を求めたい。国も不正を許さない体制をしっかりと整備すべきである。

20/06/27 05:05

【主張】ウナギ偽装 どこまで消費者欺くのか

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【2008/06/27 05:00】 | 事件 犯罪 司法 | トラックバック(0) | コメント(0)
【正論】加藤秀俊 「毒入り」に「科学認識」で決着を

≪誰でも同じ結果のはず≫

 科学というのはありがたいもので、ある条件のもとで、ある実験をおこなえばだれがやってもおなじ結果が生まれる。いや、実験などという特別なことをしなくてもよろしい。手にした石ころを放せば下に落ちる。老若男女、だれがやっても落ちる。ブラジルでやってもチェチェンでやっても落ちる。聖徳太子がやっても、ブッシュ大統領がやってもおなじ結果になる。これを万有引力の法則という。

 家庭の台所や浴室にある洗剤やらなにやらを使えば硫化水素という毒ガスが発生し、それを吸入すれば確実に死ぬ。それを実行してひとりが死ぬと、それをマネして自殺者が続出する。これも科学というものが普遍性をもっているからである。死ぬか死なないかわからない、というのであったら、あんなに連続自殺が成功するはずがない。

 こんなふうに物理、化学など「科学」という名の学問はどこでだれがやってもおなじ結果になるのが特色だ。ツマラないといえばツマラないが、安心といえば安心である。その安心のかたまりが現代社会というもので、そのなかでわれわれは生活している。

 そのあたりまえのことを知ったうえで、例の毒入りギョーザ事件をかんがえてみると、ことがらはきわめて簡単なようにみえる。新聞報道によると、問題はメタミドホスという薬物が薄い金属箔を貫通して食品にくっつくことがあるかどうか、という一点にあるらしい。

≪両国判断が違う不可解≫

 そんなこと、やってみればわかるじゃないの、といいたくなるが、それがよくわからない。日本がわの実験では金属箔を貫通することはない。だからもともと内部の食品に混入していた、という結果になっている。それに反して、中国がわの実験では貫通する、という。貫通するのだから、輸送途中、あるいは日本到着後に犯人が包装されたギョーザの外側から薬物をいれた、というわけ。摩訶不思議である。

 おなじ学問でもわれわれ「人文学」をやっている学者はしょっちゅう「解釈」ということで商売をしているから、おなじものをみても残念ながら結果や結論はなかなか一致しない。某所で虐殺があったかなかったか、あったとすれば死者は何人だったか、いや、そもそもその事件があったとして、それを「虐殺」というべきかどうか、意見は食いちがう。「歴史認識」というやつにいつになってもケリがつかないゆえんである。

 ところがギョーザをめぐる両国の学説はあくまでも「科学認識」の問題である。それも単純な問題である。それにもかかわらず実験結果がことなっている。とすると、どこかオカシイ。実験にあたっての条件はその温度、時間などでちがうというが、それならおなじ条件でやってみたらいい。おなじ条件でやってみて結果がことなるなら、それは「科学」ではない。マジックである。あるいはペテンである。

 こういうあたりまえのことについて、だれもなにもいわないのか。わたしには不審である。なによりも、このへんのところがあきらかにならないと食品不安はいつになっても終わらない。

≪公開の場で真相究明を≫

 そこで提案がある。どれだけ特殊な装置や設備が必要なのか知らないが、日中両国はもとより英米仏独、世界の科学者にも立ち会ってもらって公開実験をやってみたらどうか。金属箔で包んだギョーザの外側に薬品を用意し、その成分が内部に浸透するかどうか、衆人環視のなか実験してみるのである。

 このていどの実験なら大先生を動員するにはおよぶまい。物理・化学を専攻する学生ならだれだってできるだろう。それは日中学生の地道な共同研究、学術交流にもなる。なにしろこれは科学実験なのだから、どちらが正しいかといった勝負の問題ではない。真理を究明するための「科学」の問題なのである。べつだん面子にかかわることではない。

 ありがたいことに、テレビというのは実験大好き。「ためしてガッテン」その他、あれこれの番組でこれを中継すれば視聴率は確実にあがるだろう。金属箔をメタミドホスが貫通するかどうか、これこそ教育的娯楽番組。もちろん日本だけでなく全世界中継にしてもよろしい。

 そもそも科学に国境やイデオロギーがあるはずはないのだから、どんな結果がでるか、をたしかめることさえできたらそれでいいのである。それだけで関係者も消費者もサッパリした気分でその結果をうけいれるにちがいない、とわたしはおもっている。こういう問題を棚上げにして学術交流などとキレイゴトをならべるのはいささか白々しくはないか。(かとう ひでとし=社会学者)

20/06/25 05:42

【正論】加藤秀俊 「毒入り」に「科学認識」で決着を

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【2008/06/25 05:00】 | 事件 犯罪 司法 | トラックバック(0) | コメント(0)
【正論】和田秀樹 精神鑑定の「基準」づくりを急げ

≪ともに、「責任能力なし」≫

 東京・渋谷のセレブ妻による夫のバラバラ殺人事件は、弁護側だけでなく、検察側の精神鑑定医までが、「(被告に)責任能力なし」の鑑定を下す異例のケースだった。東京地裁の判決は、被告に完全な責任能力を認め、懲役15年の判決を言い渡した。この判決について、司法と医学が異なる判断をしたと論じた新聞もあったが、私は医学の側にきちんとしたスタンダードやコンセンサスがないために、司法が、その判断を採用しなかったと考える。

 実際には、判決文でも、被告が短期の精神病性障害にあったことも、幻聴や幻視があり、相当強い情動もあったことも認めており、「鑑定結果の信用性に疑いを差し挟む事情はない」と断じている。要するに、精神鑑定医の症状の診断結果は妥当なものであるが、責任能力なしという判断を採用することはできないということである。私は裁判官のこの考え方を支持する。

 というのは、犯行時の精神状態は、素人判断でなく、精神医学的に見ても多かれ少なかれ、異常心理になっていることは少なくない。また、最近の精神医学の診断基準は、いくつかの症状を満たせば、その診断名がつけられる操作的診断基準といわれるものを使うことが多いので、なおのこと何らかの精神医学の診断名がついてしまう。つまり、凶悪事件の裁判では、非常に高い確率で、被告人に精神科の診断名がついてしまうのだ。

 実際、司法精神医学の専門家に聞いてみると、犯行時に幻覚や妄想のような精神病症状があったとしても、その原因が心因である場合は、責任能力なしとはしないということだった。

≪正常でも異常な心理に≫

 心因というのは、今回のケースのような暴力や、精神的にショックなことのために、精神状態がおかしくなることである。一方、統合失調症や薬物中毒、そのほか脳の病気などで精神病状態になっていた場合は、責任能力なしと判断する。

 要するに、正常な人間でも起こり得る異常な心理状態のときは、なんらかの責任能力を問うが、自分ではどうすることもできない不幸な心の病を背負っていたり、脳が侵された際に生じる幻覚や妄想が犯行の原因になっている時は、責任能力を問わないという考え方である。

 今回の裁判では、幻覚や妄想が犯行の原因になっていないことも判決理由とされた。

 たとえば、統合失調症の患者さんでも、殴られれば腹が立つ。それが原因で人を殺したのなら、統合失調症の患者さんでも責任能力は問う(判断力が落ちていると考えられることはあるが)。しかし、「殺さなければ、お前を殺す」という幻聴のせいで人を殺したのなら、責任能力は問わないということである。

 被害者からすると、落ち度がないほうが責任能力がないとされる不条理であるが、病気が犯罪に与えた影響を鑑定するという観点からは、それが妥当な鑑定なのである。

 これを被害者や一般の感情からどう考えるかは別問題として、この現行の精神鑑定の考え方でさえ、精神科医の間でコンセンサスがとれていないのである。

≪秋葉原通り魔でも争点≫

 今回の鑑定を担当した弁護、検察側の精神科医は、私の聞く範囲でも、臨床能力の高い優秀な精神科医であったが、司法精神医学のトレーニングは受けていないはずだ。よきにつけ、悪しきにつけ、個々の精神科医の自己の判断なのである。だから、精神科医や裁判によってバラバラの判断がでてしまう。

 このような旧来型の、精神鑑定の基準やコンセンサスができていないのに、脳科学や精神医学の進歩のために、さらにややこしい問題も生じてきている。

 たとえば、性格の偏りのために、一般の人より犯罪傾向が強いとされる人格障害については、成育歴で虐待を受けている人が多いとされている。しかし、これは情状面での問題とされ、精神鑑定の上では、完全責任能力と考えられてきた。

 しかし、最近になって、人格障害と思われてきた人が、人の感情が理解できず、行動面の統制が悪いアスペルガーと呼ばれる発達障害、要するに先天性の脳の障害によるものなのではないかという考え方が強まってきている。このような人の責任能力についても、精神科医の間でも、完全責任能力から、責任無能力まで判断が分かれている。

 先日の東京・秋葉原の通り魔殺人でも容疑者の「責任能力」が争点となりそうだ。裁判員の制度が導入される前に早急に、精神鑑定のガイドラインと、鑑定医のトレーニングシステムを作らないと、精神鑑定の信頼性や裁判に大きな悪影響が生じるだろう。(わだ ひでき=精神科医・国際医療福祉大学教授)

20/06/20 06:29

【正論】和田秀樹 精神鑑定の「基準」づくりを急げ

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【2008/06/20 05:00】 | 事件 犯罪 司法 | トラックバック(0) | コメント(0)
亀井静香、加藤紘一、福島瑞穂

 もう45歳のネズミ人間になっていたのか。きのう、昭和と平成をまたいで全国を震撼させた幼女連続誘拐殺人事件の犯人、宮崎勤死刑囚の刑が執行された。26歳の「おたく」青年は、逮捕から20年近く生きながらえたが、殺された子供たち4人はかわいい盛りで時計が止まったままだ。

▼ 鳩山邦夫法相は、就任以来13人の死刑執行を命じた。平成では最多の執行数とあって、「鳩山法相は、ほぼ2カ月おきに死刑を執行し、ベルトコンベヤーのごとく処理している」とかみついた国会議員の集団がある。

▼ 亀井静香氏が会長を務め、加藤紘一、福島瑞穂両氏といったおなじみの面々も名前を連ねている超党派の「死刑廃止を推進する議員連盟」だ。亀井氏は鳩山氏を「法相の資格もなければ、人間の資格もない」とまで口を極めて罵ったことがあるが、正義は鳩山氏の方にある。

▼ 刑事訴訟法475条は、死刑が確定すれば、法相は再審請求が出ているときなどを除いて6カ月以内に刑の執行を命令しなければならない、と定めている。宗教上の理由などから在任中、死刑執行の命令を一度もしなかった法相が何人かいるが、彼らこそ法律違反者だ。

▼ 神ならぬ人間が人間を裁き、死をもって罪を贖わすのはいかがなものか。国家による殺人だ、という死刑廃止論者の理屈は一見、もっともにみえる。だが、凶悪犯の衣食住を保障し、国民の税金で一生のうのうと過ごさせることが社会正義にかなうはずがない。

▼ 2年前に刑が確定した麻原彰晃死刑囚も宮崎死刑囚同様、自ら罪を悔い、遺族に謝罪する可能性はゼロに近い。欧州連合(EU)では、死刑を廃止しているので日本も、という出羽守は、さっさと文明の都、パリあたりに移住されてはいかがか。

20/06/18 06:31

【産経抄】6月18日

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【2008/06/18 05:00】 | 事件 犯罪 司法 | トラックバック(0) | コメント(0)
「あたし面喰いなの」

 瀬戸内寂聴さんが、尊敬する先輩作家の宇野千代に、かかわりのあった男性について尋ねたことがある。名前を挙げると間髪を入れず、「寝た」あるいは「寝ない」の答えが返ってきた(『奇縁まんだら』日本経済新聞)。

▼ 「寝た」の方がずっと多かったが、梶井基次郎については、「寝ない!」だった。宇野が夫の尾崎士郎と別れたのは、梶井との噂が広がったからだ。それなのにどうしてと聞くと、「あたし面喰いなの」の一言で片づけたという。

▼ 東京・秋葉原の無差別殺傷事件について、山口二郎北海道大学教授が東京新聞のコラムに書いている。「生きる希望をまったく持てないような社会をつくりだした側が、真剣に反省することから事件の解明は始まるべきである」と。確かに加藤智大容疑者(25)は、職場に対する不満を語っていた。

▼ ただ、携帯サイトの掲示板にはこんな言葉を書き込んでいる。「顔だよ顔 全て顔 とにかく顔 顔、顔、顔、顔、顔」「彼女さえいればこんなに惨めに生きなくていいのに」。彼女ができない孤立感を、社会のせいにされてはたまらない。

▼ 肺結核のために31歳の若さで世を去った梶井の肖像写真を見ると、宇野のいうことも、なるほどと思う。梶井が一時自堕落な生活を送った背景には、容貌に対するコンプレックスもあったかもしれない。ただ、それを社会に直接ぶつける代わりに小説に昇華させた。爆弾に見立てたレモンを丸善に置いて立ち去る『檸檬』をはじめ、奇跡のような名作を残した。

▼ 金がない、勉強ができない、異性にモテない。昔から青春時代につきものの悩みを、乗り越えてこその人生である。やはり加藤容疑者には、「甘ったれるな」と一喝するしかない。

20/06/17 05:07

【産経抄】6月17日

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【2008/06/17 05:00】 | 事件 犯罪 司法 | トラックバック(0) | コメント(0)
「もし死なば多くの実を結ぶべし」

 昭和45年3月、羽田発福岡行きの日航機がハイジャックされた「よど号」事件で、人質となった乗客のなかに、聖路加国際病院理事長の日野原重明さん(96)がいたことはよく知られている。日野原さんは監禁されている間、犯人側から借りたドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を読みふけっていた。

▼ 「一粒の麦もし地に落ちて死なずば唯一つにてあらん。もし死なば多くの実を結ぶべし」。ゾシマ長老が、末弟のアリョーシャたちに語った法話のなかで、引用した聖書の一節がことさら心にしみたという。

▼ 今まで懸命に生きてきたから、ここで死んでも悔いはない。もし、生きて帰ることができたら、世の中にお返しをしよう。その思いが、日野原さんの医師としての後半生を決定づけた。

▼ 犯人グループも北朝鮮で、この小説を読み返し、自分の人生に重ね合わせたことがあったのかもしれない。とすれば、ゾシマ長老が、やはり法話で語った「ヨセフの物語」を覚えているはずだ。父ヤコブから特別の愛を受けたヨセフは、兄たちに疎まれ、奴隷として売り飛ばされてしまう。

▼ 長い年月が過ぎ、エジプトで宰相となったヨセフは、穀物を買いに来た兄たちと再会、父ヤコブは最愛の子が生きていることを喜びエジプトに向かう。イランでは、武装集団に誘拐されていた横浜国立大生が、8カ月ぶりに解放された。北朝鮮に拉致された被害者は、いつ家族と再会できるのか。

▼ 北朝鮮は、よど号犯グループの身柄引き渡しへの協力を約束したという。このなかには、欧州での日本人拉致に関与したとされる実行犯も含まれている。帰国したいのなら、まず拉致事件についてすべてを語れ。罪を贖う道はそれしかない。

20/06/16 04:56

【産経抄】6月16日

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【2008/06/16 05:00】 | 事件 犯罪 司法 | トラックバック(0) | コメント(0)
【主張】秋葉原無差別殺傷 未然防止に知恵絞りたい

 7人死亡、10人が重軽傷を負った東京・秋葉原の無差別殺傷事件から、15日で早くも1週間がたった。調べが進むにつれ、容疑者のあまりにも身勝手で無軌道な凶行に怒りが募る。

 容疑者の加藤智大派遣社員は8日の白昼、歩行者天国でにぎわう秋葉原の中央通り交差点に2トントラックで突っ込み、逃げまどう通行人をダガーナイフで突き刺した。過去の通り魔事件でも例がない残忍な犯行だった。

 7月7日からの北海道洞爺湖サミットを控え、繁華街でのテロ対策を重点目標に置く警察当局にとっては、見過ごせない重大犯罪でもあった。

 調べに加藤容疑者は、「多くの人を殺すため、通行人がいっぱいいる秋葉原の歩行者天国を狙った」と供述しているという。無差別大量殺人を実行するため、注目度が高い「アキバ」を犯行現場に選んだようだ。

 秋葉原中央通りの歩行者天国は、昭和48年に始まり、日曜日と祝日の午後に車の通行を規制、歩行者に開放してきた。

 事件後、地元の千代田区と商店街が協議、15日から当面の間の中止を警視庁に要請、都公安委員会が中止を正式決定した。残念だが事件の影響や遺族の思いを考えれば、致し方ない。安全が確認されれば、休日の楽しみだったアキバのホコ天再開を望みたい。

 さらに、容疑者が犯行に使用したダガーナイフについて、国内一の生産を誇る岐阜県関市の刃物組合が生産と輸入の中止を決めたことは当然である。

 このナイフは戦闘用として開発されたもので、殺傷能力が高く、一般にはあまり使われていない。ナイフ類も用途、目的などに応じて販売禁止など法の網をかぶせるべきだ。銃を含め容易に凶器を入手できないような仕組みを構築すれば、事前に犯罪の芽を摘み取る近道となろう。

 また、加藤容疑者は凶行前に携帯サイトの掲示板に犯行予告を繰り返していたほか、職場への不満や両親への憎悪、孤独感などを詳細に書き込んでいたことが判明している。事前に察知できなかったことは返す返すも残念である。

 ネット社会では、接続業者やネット管理会社の協力で、検知可能な体制作りが急務だということを思い知らされた。今回の事件はさまざまな問題を提起した。その一つ一つを教訓にしたい。

20/06/15 05:41

【主張】秋葉原無差別殺傷 未然防止に知恵絞りたい

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【2008/06/15 05:00】 | 事件 犯罪 司法 | トラックバック(0) | コメント(0)
【正論】佐々淳行 早急に内閣で「通り魔審議会」を

≪天地も許さざる悲劇≫

 8日の日曜日、東京・秋葉原の「歩行者天国」がわずか5分間で無差別大量殺人の「地獄」と化した。トラックで人々をひき倒し、サバイバル・ナイフで次々に刺すという天、地、共に許さざる惨劇である。今、秋葉原は世界のアキハバラである。平成28年五輪の最終候補地の中で東京が最も治安のいい都市として世界的に認められたばかり、洞爺湖サミットも目前なのに、何たることか。

 京都、奈良よりアキハバラと、米国、中国からの観光客や、修学旅行でも賑わうという秋葉原を狙っての通り魔事件とは、かつて日本赤軍の岡本公三らが敢行したイスラエルのテルアビブ・ロッド空港乱射事件に次ぐ凶悪犯罪である。外国人被害者が出なかったことがせめてもの慰めだ。

 何の罪もないのに殺された7人の方々に心からの哀悼の意を表し、重軽傷を負われた10人の方々の一日も早い回復を祈るばかりだ。

 明らかにこの事件の容疑者、加藤智大(かとうともひろ)(25)は「模倣犯」だ。過去5年間に全国で起きた通り魔事件は30件に及ぶが、今年も、東京・品川の戸越銀座では包丁による5人の傷害事件があり、茨城県土浦市のJR荒川沖駅で指名手配殺人犯が8人を殺傷した事件は記憶に新しい。今回もこれら事件をネットで精査したうえでの犯行のようだ。

≪ネット上の反社会的言説≫

 今日、ネット上では「人を殺せば刑務所に入れると思った」とか「殺人は17歳までにやれば絶対死刑にならない」といった許し難い反社会的言説が跳梁跋扈している。

 刑罰が軽すぎるのである。刑法第39条の「心神喪失又は耗弱は、免刑又は減軽」という、加害者の人権を擁護するあまり被害者のそれを軽視する、誤れる「教育刑主義」に通り魔の再発を促す要因がある。今回も、恐らく数日を出ずして人権派・死刑廃止派の弁護士たちが、この容疑者は刑法39条該当者だとして無罪を申し立てることだろう。

 この際「人を殺せば死刑」という人類古来の自然法に則る「応報主義」でこの殺人に臨み、早く裁判にかけ、「模倣犯」の悪い連鎖を今度こそ断ち切らなくてはいけない。死刑廃止の機運は4月、東京・渋谷で夫を殺害、バラバラに遺棄した妻の戦慄すべき所業にDV(配偶者間暴力)犠牲者の情状を認め、一部心神喪失として15年の刑とした東京地裁判決で助長されてはいるが、今回の犯人に酌量すべき情状は何一つない。

 再発防止策がいつものように論じられているが、「歩行者天国へのパトロール強化」「防犯カメラの設置」「ナイフの取締罰則強化」など、激しい怒りと被害者への感情移入が感じられない陳腐な彌縫(びほう)策ばかりで再発防止は困難という「敗北主義」を感じる。多年にわたり「応報主義」の極刑による抑止を主張してきた筆者は、この機会に法務省、検察庁、警察庁、さらには総理官邸、裁判官、刑法学者、マスコミを加えての「通り魔事件根絶のための審議会」を直ちに立ち上げ、「刑法第39条」の改正、あるいは少なくともその運用面における適用凍結の申し合わせを行い、「模倣犯」の出現を早期に抑止する刑事政策の転換を提言したい。警察だけでは無理だ。総合行政で内閣が取り組むべきである。

≪警察内部の規律乱れも≫

 今回、警視庁万世橋署地域安全課の荻野尚巡査部長(41)の防刃衣3カ所を切られながらの勇気ある現行犯逮捕の執行務には、速やかに論功行賞を行い、第一線警察官の士気を鼓舞することが肝要だ。彼が逮捕しなければ犠牲者はもっと増えただろう。まさに逮捕術の模範演技の如き見事な逮捕であった。

 だが…どうも筆者ら“警察戦国時代”のOBからみると、現職の警察官は弱腰で勇気が欠けているように思える。例えば、平成17年2月、フジテレビ本社前で棒を振りまわす暴漢から逃げる姿をテレビ放映され、時の小泉総理を激怒させた制服3人組がいた。平成19年5月には、愛知県長久手町で元妻を人質に拳銃を持って立てこもった暴力団員に撃たれた巡査部長を約5時間放置し、ついには有為のSAT隊員を殉職させてしまうという事案もあった。

 JR荒川沖駅事件では、茨城県警は170人の警戒体制で、駅にも8人の私服を張り込ませていたのに、指名手配殺人犯に8人の市民を殺傷させてしまった。6月3日、埼玉県川越市で起きた強盗犯人乗用車立てこもり事件も、解決まで8時間もかかった。

 どうも警察組織も、上層部がかかわると「慎重」「人権」の美名の下で不決断、不作為、保身が事件解決を長引かせている。今回、矢代隆義警視総監の陣頭指揮は評価されるが、上層部の「危機管理」の再教育も必要なようだ。(さっさ あつゆき=初代内閣安全保障室長)

20/06/11 05:01

【正論】佐々淳行 早急に内閣で「通り魔審議会」を

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【2008/06/11 05:00】 | 事件 犯罪 司法 | トラックバック(0) | コメント(0)
【正論】小堀桂一郎 裁判員制度の実施を断念せよ

≪宣伝に努める推進派≫

 裁判員制度の実施が一年後に迫つたといふことで、この制度を推進する側は国民に積極的参加を呼びかける宣伝に是努めてゐる。宣伝の聲が異様に囂しいのは、専門家の所見によれば「法定の条件を欠いた違法の政令制定」を以てしてまで施行期間を早々に布告した性急さと同様、反対論の高まりを恐れての当局の焦りの表れである。

 反対論と言へば、筆者も昨年11月13日付の本欄で、法曹界に揚つてゐる聲とは少しく異なる、宗教・倫理上の観点からの根本的な反対意見を述べておいた。法曹界自体から出されてゐる反対論の代表的なものとしては、さきに(2月29日付)新潟県弁護士会による「裁判員裁判の実施延期を求める決議」の提言があつたが、最近では「裁判員法の廃止を求める会」から、この制度が憲法に違反したものである所以を法理論的に論証した精緻な論文の発表があり、此と並んで、「裁判員制度はいらない!大運動」といふ市民運動の団体が、この制度は基本的人権の否定に繋る、との強い反対を公にしてゐる。

 後の二団体は憲法記念日を翌日に控へた5月2日に記者会見を開いて改めて反対意見を聲明し、殊に前者は『国民よ、裁判員制度の宣伝にだまされるな』と題する小冊子を配布して国民が「だまされつつある」現状に警告を発してゐる。両団体の記者会見での主張の要旨は、管見に入った限りでは毎日・朝日の両紙がほぼ公正に報道してゐるが本紙は全く報じてゐない。却つて同じ日に行はれた島田仁郎最高裁長官の記者会見談話の趣旨のみを、反対派の主張との均衡を破つて詳しく紹介してゐる。

≪司法人としての誤謬≫

 島田長官の発言には、本紙の記事によつて見ての限りであるが、看過し難い誤謬があるのでそれを先づ指摘しておきたい。島田氏は〈裁判員として刑事裁判に参加することは、国民の義務であるとともに権利〉であると述べた由であるが、これは暴論である。国民の義務と権利を規定する法源は、その国民の帰属する国家の歴史の中に存する。それは夫々の国家が有する法制史的来歴と国家共同体としての長い経験の蓄積からわり出された歴史的所産なのであつて、一司法人が軽々しく創設的規定を述べる事が許される様な当用の便宜的法理ではない。島田氏は司法人としての誤謬を犯すと同時に、公人としての甚しい不遜僭越の罪を犯してゐるのだが、御本人はその重過失に全くお気付きではないやうである。

 最高裁を代表とする司法当局のなりふり構はぬこの制度強行の姿勢を見てゐて直ちに連想する歴史的先例がある。それは、支那事変収拾工作に失敗した第一次近衛文麿内閣の硬直した外交政策の底にあつた或る「打算的思考」である。筆者とても、支那事変収拾工作の度重なる挫折、所謂泥沼化の主要な原因が、中国共産党の策謀に繰られた国民政府の根強い対日戦争意欲と挑発的行動にあつたといふ事はよく認識してゐる。

≪支那事変収拾失敗の教訓≫

 然しそれにしても、昭和13年1月15日、対支和平交渉を審議する大本営政府連絡会議の席上で、参謀本部次長多田駿中将の賢明にして懸命なる和平交渉継続の主張に対して政府の面々はどの様に応じたか−。詳細は青史を繙けばわかる事でここで紹介する余裕はないが、一言しておきたいのは、参謀本部の真の戦略的遠謀深慮に発する主張を斥け、万が一にも掴み得たかもしれない事変収拾の芽を脆くも潰してしまつたのは、時の内閣の硬直した権威主義と算盤勘定的思考だつたといふ、この事である。

 権威への固執とは、平たく言へば面子である。戦闘局面では日本はたしかに勝勢にあつた。故に、ここで相手の望む条件での和平工作に執着するのは、勝機を手中にしてゐる軍と政府の面子にかかはる外交的失敗だと思はれた。

 算盤といふのはそれまでに投じた厖大な戦費と人命の犠牲を考へる時、それに見合ふだけの戦勝利得を手にする事無しに大陸からの撤兵はできない、といふ打算である。かけた費用と労力が無駄になるとしても、測り知れぬ破局に落ち込むよりはましであるとの簡単な道理への洞察を政府は有せなかつた。荒天の兆候を見て「引返す勇気と決断」の無かつた登山者が結局遭難するのと同じ事である。

 裁判員制度の実施を目指して、当局はおそらく既に莫大な経費と精力を投入しもしたであらう。だが幸ひにして人命の犠牲は出てゐない。財政上の無駄な支出などは、この悪法実施後に予想される日本人の人倫上・法的権利上の破局的損失に比べれば軽微なものである。司法当路者は支那事変の教訓に学んで、「引返す勇気と決断」を持たれるがよい。(こぼり けいいちろう 東京大学名誉教授)

20/05/29 06:02

【正論】小堀桂一郎 裁判員制度の実施を断念せよ

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【2008/05/29 05:00】 | 事件 犯罪 司法 | トラックバック(0) | コメント(0)
長崎市長射殺の犯人は韓国人「白正哲」

 長崎前市長射殺事件で、暴力団幹部の被告を検察側の求刑通り死刑とした長崎地裁の判決は、司法当局が暴力団の銃器犯罪に極めて厳しい姿勢を打ち出した点で評価でき、妥当な判断だ。

 死刑にするか無期懲役の判決を言い渡すかが最大の注目点だった。被害者が1人で被告に殺人の前科がないため、これまでの量刑基準から、死刑を回避するとの予想もあった。

 それだけに、今回の死刑を適用した判決は、今後の暴力団犯罪に対し、大きな抑止効果をもたらすと期待される。

 銃器を使用した暴力団犯罪は後を絶たず、また暴力団が資金源の確保から、自治体の公共工事に介入するいわゆる「行政対象暴力」が社会問題になっている。射殺事件はまさに、この行政対象暴力の典型的な事件であった。

 長崎前市長射殺事件がきっかけで、暴力団の銃器などによる凶悪事件は、厳罰化の流れが加速している。今回の死刑判決もこの社会の厳しい目を司法においても示したものと理解できる。

 事件は昨年4月の統一地方選の最中に起きた。当時の伊藤一長市長が4選を目指して選挙運動中、JR長崎駅前の選挙事務所に帰ったところを、暴力団幹部の城尾哲弥被告が至近距離から拳銃2発を発射し死亡させた。

 検察側は論告で「選挙テロともいうべき犯行であり、行政対象暴力の極限だ」と厳しく批判して極刑を求めた。

 長崎地裁は判決理由で、「銃犯罪の恐怖を全国に広めた凶悪、卑劣な犯行」と認定し、「選挙権の行使を妨害し、民主主義を根底から揺るがす行為だ」と、検察側の主張を全面的に認める判断を下した。民主主義の根幹たる選挙制度をテロという暴力によって否定することは断じて許されない。

 長崎市の事件後、行政対象暴力に対し、全国の各自治体が暴力団排除の動きを強めている点が注目される。行政対象暴力があれば、積極的に警察に通報する自治体が相次いでいる。

 公共工事を受注した企業が、暴力団などの反社会的勢力から不当な要求を受けた場合、自治体への通報を義務付ける制度の導入などは、長崎事件が教訓となって、全国の自治体に広まっている。

 弁護側が即日控訴したため、審理は福岡高裁に移る。同高裁の量刑判断を注目したい。

20/05/27 05:01

【主張】長崎市長射殺判決 死刑が妥当の「選挙テロ」

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【2008/05/27 05:00】 | 事件 犯罪 司法 | トラックバック(0) | コメント(0)
【主張】裁判員制度 参加意識もっと高めたい

 一般の国民が職業裁判官とともに1審の刑事裁判を審理する「裁判員制度」が、ちょうど1年後からスタートする。

 裁判員制度の対象となる事件は殺人、誘拐、危険運転致死傷などの重大事件で、来年5月21日以降全国の各地方裁判所に起訴された事件を審理する。

 このため、裁判員裁判が法廷で実施されるのは、来年7月下旬から8月上旬になるとみられる。最高裁では年間3000件の裁判に裁判員が参加するとの見通しを立てている。

 裁判員制度は20歳以上の選挙権を有する人をくじ引きで6人選び、3人のプロの裁判官とともに1審での審理を行い、有罪か無罪かを決める。有罪の場合は刑をどのくらいにするかという量刑判断も行う。

 この裁判員制度は一般国民の社会常識を裁判に反映させることが最大の目的である。いわば国民の目線で裁判を審理してもらおうというわけだ。

 国民の協力と理解が得られなければ「裁判員制度」を始める意味はない。最高裁、法務・検察、日本弁護士連合会(日弁連)の法曹3者の懸命のPRもあって、制度そのものは国民の間にかなり浸透してきた。

 しかし、最高裁が1〜2月にかけて実施した国民の意識調査では、「参加したい」「参加してもよい」が計16%、「あまり参加したくないが義務だからやむを得ない」が45%、「義務でも参加したくない」が38%と圧倒的に“消極派”が多い。

 これは「素人に難しい裁判ができるのか不安」「被告の運命が決まるため責任が重い」などが理由だ。事件によっては無期懲役か死刑かを判断する裁判に参加するかもしれない。裁判員の不安は至極当然だろう。

 法曹3者はこの1年間に裁判員が抱く不安をできる限り払拭する最善の努力が必要だ。検察官や弁護士は、法律に素人の裁判員にわかりやすい審理が求められる。その周到な準備も欠かせない。

 裁判官は評議で裁判員に丁寧に事件の争点などを説明することが大切だ。辞退申し出の裁判員を認めるかどうかも裁判官の役割だけに、負担はこれまで以上に増える。わが国の司法制度を根底から変える画期的な改革だけに、法曹3者には、待ったなしの1年である。課題は山積している。

20/05/22 05:52

【主張】裁判員制度 参加意識もっと高めたい

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【2008/05/22 05:00】 | 事件 犯罪 司法 | トラックバック(0) | コメント(0)
【主張】インサイダー取引 野村とは聞いてあきれる

 証券会社の社員がインサイダー取引に手を染めるとは、あきれてしまって言葉も出ない。

 証券最大手の野村証券の中国人社員が、企業の合併・買収(M&A)に関するインサイダー情報を悪用し、不正な利益を得ていた疑いがあるとして、証券取引等監視委員会は事情聴取を行った。東京地検も強制捜査に踏み切った。

 中国人社員は企業情報部に所属し、顧客企業に直接、M&Aをアドバイスする立場だった。このため、合併などの重要情報を発表前に容易に知ることができ、その情報を知人の中国人の兄弟に伝えて株の売買をさせ、個人的な利益を得ていた。

 証券マンにとって、インサイダー取引をしないというのは基本中の基本である。野村は、総会屋に対する利益提供事件や大蔵省(現財務省)に対する接待汚職事件などの不祥事が起きる度に、コンプライアンス(法令順守)の徹底を誓ってきたはずである。

 社員のモラルの低下は、金融市場の信頼を揺るがせる重大な犯罪につながる。同社は確信犯だと情報管理は難しいとしているが、それは言い訳にすぎない。証券業界のリーダーとして責任は極めて重いと言わざるを得ない。

 今回の事件は、グローバル時代におけるコンプライアンス教育の問題点も浮き彫りにした。

 野村はアジアでの業容拡大をめざして優秀な外国人を積極的に採用している。この中国人社員も日本の大学に留学した後、野村に入社、いまは香港駐在である。

 多国籍の社員らは、さまざまな文化や習慣を有している。しかし、グローバル化が加速している以上、共通のコンプライアンスを徹底させるのは当然である。とくに金融市場のルールは万国共通のはずであり、金融業界にはその教育方法の再点検を求めたい。

 日本の株式市場は、米国発のサブプライムローン問題と米国経済の減速の影響で低迷が続いている。市場が不正でゆがめば、投資家の離反が進む。市場の活性化は、規制緩和や税制見直しなどだけではなく、透明性をいかに高めるかにかかっている。

 今国会では、インサイダー取引の課徴金引き上げに関する法改正も審議されている。再発を防止するためにも、司法当局や金融庁は、厳しい姿勢で今回の事件に臨んでほしい。

20/04/23 05:01

【主張】インサイダー取引 野村とは聞いてあきれる

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【2008/04/23 05:00】 | 事件 犯罪 司法 | トラックバック(0) | コメント(0)
【主張】母子殺害死刑 常識に沿う妥当な判決だ

 少年といえども凶悪で残酷な事件を起こせば、厳罰でのぞむという裁判所の強い姿勢がうかがえた。社会の常識に沿った、極めて妥当な判決と受け止めたい。

 犯行当時18歳1カ月の少年に死刑を適用するかどうかで注目されていた山口県光市の母子殺害事件の差し戻し控訴審で、広島高裁は元少年(現在27歳)に死刑判決を言い渡した。

 差し戻しとなった今回の広島高裁の判決は、被告・弁護側の主張をことごとく退ける厳しい判断を示した。弁護側はこれを不服として再び上告したが、今度は最高裁で確定する可能性が高い。

 事件は9年前に会社員、本村洋さんの妻(当時23歳)と娘(同生後11カ月)の2人が殺害された。殺人や強姦致死などの罪に問われた元少年は1、2審では殺意を認めた。1審山口地裁は死刑の求刑に対し、被告が18歳の少年だったことや計画性がないなどを考慮、無期懲役の判決を下し、広島高裁もこれを支持した。

 しかし、最高裁第3小法廷は一昨年6月、「量刑ははなはだ不当で、特に考慮すべき事情がない限り死刑を選択するほかない」と、広島高裁に審理のやり直しを命じた。この時点で元少年に死刑の判決が言い渡される可能性が極めて高くなっていた。

 ただ、差し戻し審では全国から集まった計21人の弁護士が「死刑回避」を最大の目標に大弁護団を結成、検察側と全面対決する異例の展開となった。弁護側は法廷で、被告が1、2審で認めた殺意を否定し、事件は傷害致死だと主張するなど、事実関係そのものを争った。

 「何とか被告の元少年を死刑から免れさせたい」とする弁護戦術とみられるが、その主張には無理があり、社会常識では到底理解しがたいものだった。

 差し戻し審は元少年が供述を変遷させたことなどを「不自然で不合理、信用できない」とし、「犯行は冷酷、残虐にして非人間的な所業である。死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情があるとまではいえない」と厳しく糾弾した。2年前の最高裁判決にほぼ沿った判断である。

 今回の差し戻し審判決は、司法の少年事件に対する厳罰化の流れを加速させることになろう。また、来年から始まる裁判員制度の裁判員にも参考となる判断基準を示した意味ある判決といえる。

20/04/23 05:03

【主張】母子殺害死刑 常識に沿う妥当な判決だ

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【2008/04/23 05:00】 | 事件 犯罪 司法 | トラックバック(0) | コメント(0)
【産経抄】理性を失ってしまった支那の若者達

 若い人は、「怒り」を表すとき、「頭にくる」や「腹がたつ」の代わりに「むかつく」という言葉をよく使う。立川昭二北里大学名誉教授によると、「頭にくる」や「腹がたつ」の場合は、怒りが、いったんからだの中に入り、考える時間がある。

▼ 「むかつく」は全然からだに入ってこない。相手と自分の間が「切れて」しまっている(『からだことば』早川書房)。立川氏は「デジタル社会という時代背景もあるのではないでしょうか」と控えめに指摘する。大ありだろう。

▼ いじめの温床として、今深刻な社会問題となっている「学校裏サイト」には、「むかつく」のほか、「キモイ」や「うざい」といった悪口があふれている。インターネットの効用はいうまでもない。半面、人間味を失った言葉が、嫌悪感を増幅させて、特定の個人に襲いかかる事件が頻発している。

▼ ニューヨーク・タイムズ紙によると、チベットをめぐって対立する学生グループを仲裁しようとした、米ノースカロライナ州のデューク大学の中国人留学生が、ネット上で「売国奴」と糾弾されている。中国人学生向けサイトには、女子学生の個人情報が掲載され、本人には脅迫メールが送られ、実家には汚物がまかれたという。

▼ 中国のネット社会でどんな言葉が飛び交っているのか不案内だが、もはやいじめのレベルを超えている。国内ではネットによる呼びかけで、北京五輪の聖火リレー妨害を許したフランスへの抗議デモが各地に広がっている。若者の多くが、「切れて」しまったとしか思えない。

▼ 彼らの「むかつき」の本をただせば、政府が植え付けた自国中心の愛国主義に行き着く。ネットの脅威に気づいて、今さら「理性」を訴えても遅すぎる。

20/04/22 05:06

【産経抄】4月22日

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【2008/04/22 05:00】 | 事件 犯罪 司法 | トラックバック(0) | コメント(0)
【主張】支那「愛国」デモ 五輪壊す過激な民族主義

 北京五輪の聖火リレーをめぐって、国際社会に広がる中国批判に対し、強い反発を示す動きが中国内外で拡大している。五輪開催国で「愛国心」が盛り上がりをみせるのは当然だろうが、今回の動きは見過ごすわけにはいかない。

 中国内で100以上の店舗を展開する仏大手スーパー「カルフール」の不買を呼びかける抗議行動が目立つ。携帯メールなどで「カルフールの大株主が(チベット仏教最高指導者の)ダライ・ラマ14世に資金援助している」との情報が流れたのが発端という。カルフール側が「北京五輪を支持している」と弁明してもおさまらない。標的の店舗を中国国旗が取り囲む異様な大規模デモは、仏大手自動車メーカーが進出した湖北省武漢など10都市以上に広がった。

 「フランスは口を閉じろ」などと叫ぶ抗議の矛先はカルフールというより、人権重視の立場から中国政府のチベット弾圧に厳しい姿勢を示すフランスと欧米各国に向けられている。中国内の動きと連動するようにパリやロンドン、ベルリンなどでも中国人の若者らによるデモが繰り広げられた。

 表現は自由だ。中国人による欧米批判も、五輪聖火リレーへの抗議と同様に非暴力である限り許されてよい。

 だが、比較的客観的な報道ぶりで知られる中国中央テレビのキャスター、白岩松氏が「不買運動では問題は解決しない」と冷静な対応を呼びかけたところ、「民族の裏切り者」といった非難がネットなどに殺到した。

 米ノースカロライナ州の大学でチベット支持の学生グループと中国政府支持の学生グループの仲裁にあたった中国女子留学生が、ネット上で「売国奴」とののしられ、中国の実家には汚物がまかれたというニューヨーク・タイムズ紙の報道もあった。いずれも極端な例ではあろうが、対立する意見を一切認めない脅迫的反応には一党独裁国家の影が感じられ、強い違和感をおぼえる。

 日本に滞在する中国人留学生の組織が聖火リレーは「中華民族の団結力を示している」とし、26日の長野でのリレーを盛り上げるため動員計画を立てているという。節度ある行動を望みたい。

 偏狭な愛国主義は排外主義に転化する。排外主義は北京五輪のスローガン「ひとつの世界、ひとつの夢」とは全く相いれない。

20/04/22 05:09

【主張】中国「愛国」デモ 五輪壊す過激な民族主義

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【2008/04/22 05:00】 | 事件 犯罪 司法 | トラックバック(0) | コメント(0)
【主張】沖縄集団自決訴訟 論点ぼかした問題判決だ

 沖縄戦で旧日本軍の隊長が集団自決を命じたとする大江健三郎氏の著書「沖縄ノート」などの記述をめぐり、元隊長らが出版差し止めなどを求めた訴訟で、大阪地裁は大江氏側の主張をほぼ認め、原告の請求を棄却した。教科書などで誤り伝えられている“日本軍強制”説を追認しかねない残念な判決である。

 この訴訟で争われた最大の論点は、沖縄県の渡嘉敷・座間味両島に駐屯した日本軍の隊長が住民に集団自決を命じたか否かだった。だが、判決はその点をあいまいにしたまま、「集団自決に日本軍が深くかかわったと認められる」「隊長が関与したことは十分に推認できる」などとした。

 そのうえで、「自決命令がただちに事実とは断定できない」としながら、「その(自決命令の)事実については合理的資料や根拠がある」と結論づけた。

 日本軍の関与の有無は、訴訟の大きな争点ではない。軍命令の有無という肝心な論点をぼかした分かりにくい判決といえる。

 訴訟では、軍命令は集団自決した住民の遺族に援護法を適用するために創作された、とする沖縄県の元援護担当者らの証言についても審理された。大阪地裁の判決は元援護担当者の経歴などから、証言の信憑性に疑問を示し、「捏造(創作)を認めることはできない」と決めつけた。

 しかし、本紙にも証言した元援護担当者は琉球政府の辞令や関係書類をきちんと保管し、経歴に疑問があるとは思われない。これらの証言に対する大阪地裁の判断にも疑問を抱かざるを得ない。

 集団自決が日本軍の「命令」によって行われた、と最初に書いたのは、沖縄タイムス社編「鉄の暴風」(昭和25年、初版は朝日新聞社刊)である。その“軍命令”説が大江氏の「沖縄ノート」などに引用された。その後、作家の曽野綾子氏が渡嘉敷島などを取材してまとめたノンフィクション「ある神話の背景」で、「鉄の暴風」や「沖縄ノート」の記述に疑問を提起し、それらを裏付ける実証的な研究も進んでいる。

 今回の判決は、これらの研究成果もほとんど無視している。

 判決前の今年2月、座間味島で日本軍の隊長が集団自決を戒めたとする元防衛隊員の証言も出てきた。控訴審で、これらの新証言も含めて審理が尽くされ、適正な判断を期待したい。

20/03/29 05:31

【主張】沖縄集団自決訴訟 論点ぼかした問題判決だ

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【2008/03/29 05:00】 | 事件 犯罪 司法 | トラックバック(0) | コメント(0)
【正論】加藤秀俊 捕鯨妨害と龍馬の「万国公法」

≪「海援隊」の海難事故≫

 慶応3年4月のことというから、150年ほどむかしのことである。坂本龍馬が組織した「海援隊」はやっとのことで手にいれた「いろは丸」で瀬戸内海を航行中、紀州藩の明光丸という船と衝突した。非は相手にある。

 ロープにつかまって明光丸に飛び移った龍馬は、即座に船長を呼びつけて談判をはじめた。かれは「万国公法というものがある。それを守らぬとあれば、この船上で諸君を撫で切りにして私も切腹する」といって執拗に食い下がり、結局8万両という大金で賠償責任を果たさせた。

 これ以上くわしいことは司馬遼太郎さんの『竜馬がゆく』を参照していただくことにするが、ここで重要なのは龍馬が「万国公法」という観念で事件を処理したことである。それまでの日本では海上での紛争解決にあたっての規則はなにもなかった。

 龍馬はかねて「万国公法」というものがあることを知りイギリスの書物を読んでいたのだ。明治政府が成立する以前にこうした世界的視野を龍馬がもっていたことにはおおいに感動する。

≪不法入国に等しい暴挙≫

 南極海で日本の捕鯨船が操業中に襲撃された、という事件を耳にしたとき、わたしが即座に思いだしたのはこの「万国公法」ということばであった。

 新聞報道によると、まず我が国の捕鯨船は国際的に承認をうけて公海上で活動していた。そこにシー・シェパードなる捕鯨反対の民間団体の船が接舷してきて、2人の「活動家」が強引に乗り移ってきた。日本の船はどこにいっても日本の主権がおよんでいる。とすれば、これは不法な住居侵入というよりは不法入国ともいえるのではないか。

 この不法入国者たちをやっとのことでオーストラリアで下船させると、こんどは化学薬品のはいったビンを捕鯨船にむけて発射した。爆発のしようによっては重大な人身事故につながりかねない行為である。はっきりいってこれは化学兵器による明白な「武力攻撃」である。

 この団体はみずからを3隻の艦隊で編成された「海神の海軍」と名づけ、およそ30名の乗組員名簿をみるとその過半数はオーストラリア人。あとはアメリカ、イギリス、など。いわば私設の「多国籍軍」である。

 そのうえ、この「海軍」は黒地に白のドクロのマークの旗をかかげ、「善良なる海賊」と自称する。海賊に「善良」も「不良」もあるまい、とわたしはおもうのだが先方は本気でそう思って誇らしげに宣伝している。稚気満々といえないこともあるまいが、迷惑千万である。

 これだけのことが判明していて、乱暴狼藉をはたらいているのだから、これは「万国公法」に照らして、おおいに真剣にかんがえるべき問題だろう、とわたしは思うようになってきた。イタズラ坊主がちょこちょこと暴れるくらいのことは大目にみてもよい。わたしなども、これまでずいぶん学生運動や市民運動をみてきたから、ある程度までは寛容の精神をもっているつもりである。いくら海賊映画が流行るからといっても、これはひどすぎる。

≪国際法で成敗すべし≫

 それに、わたしのみるところ環境保護その他もろもろの大義名分をかかげる団体のなかには狂信的カルト集団になってしまっているような事例もたくさんある。ほうっておいたり甘やかしたりするとますますツケあがる。

 そろそろここらで「万国公法」、現代のことばでいえば国際法によって成敗すべきではあるまいか。捕鯨船に同乗している保安庁の職員が警告弾で反撃したのは当然である。この海賊船の追尾がまだ繰り返されるなら、攻撃には徹底した反撃あるのみ。弱腰になったり、逃げたりしては国威にかかわる。

 「善良なる海賊」はことしの活動は成功したといい、来年はその艦隊を2隻にふやしてさらに日本の捕鯨を妨害する予定だ、という。相手が多国籍私設海軍なのだから、どこに訴えたらいいのか手続きはいささかめんどうだろうが、龍馬にならって本気で損害賠償請求くらいはしてもよろしいのではないか。先方が来年の計画を公表している以上、当方も周到な準備をしておくほうがよい。

 龍馬の故郷、土佐は「よさこい節」に「おらんくの池にゃ潮吹く魚が泳ぎより…」とあるようにむかしから勇壮な捕鯨のおこなわれていたところである。わたしも高知県下の博物館、図書館で江戸時代の捕鯨の図などを見学した。龍馬の「万国公法」の場面を思いだしながら、わたしの頭のなかにはそのときの記憶もよみがえってきたのであった。(かとう ひでとし=社会学者)

20/03/24 06:28

【正論】加藤秀俊 捕鯨妨害と龍馬の「万国公法」

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【2008/03/24 05:00】 | 事件 犯罪 司法 | トラックバック(0) | コメント(0)