わら一本の革命

 自然農法の提唱者として知られる福岡正信さんは、70年前、横浜税関の植物検査課で、病気害虫の研究に没頭していた。といっても研究室に閉じこもっていたわけではない。カメラに凝って、桟橋で見つけた美人に頼み込み、写真を撮らせてもらったことがある。

▼ 現像して友達に見せたら、女優の高峰三枝子だと教えられた。南京街のダンスホールで、歌手の淡谷のり子と踊ったこともある。そんなある日、急性肺炎を引き起こし、入院中に突然死の恐怖にとりつかれた。退院して、一晩さまよい、街を見下ろす丘の上で、夜明けを迎えた。

▼ 「人間は何もしなくていい」。こんな考えが突然ひらめいたという。故郷の愛媛県伊予市に帰り、ミカン作りや米作りで、考えが正しいことを証明しようとした。16日、95歳の天寿を全うした福岡さんは、著書の『わら一本の革命』のなかで、自然農法を始めたきっかけをこのように語っている。

▼ 耕さない。一切の農薬、化学肥料を使わない。田植え、草取りもしない。だから、田んぼは草ぼうぼう、果樹園はジャングルのようだった。それでいて、収穫量は普通の水田の倍近くあった。果樹園からは、夏ミカン、ウメ、サトイモ、ダイコンなど100種類近くの作物がとれた。

▼ といっても、福岡さんの自然農法は、放任とは違う。人間が何の手を加える必要がない状態を作りあげるまで、試行錯誤が続いた。晩年にはアジア、アフリカ各国で、砂漠緑化にも取り組んだ。

▼ 『わら一本の革命』には、「国民皆農」の提案もある。「自然農法で日曜日のレジャーとして農作して」、生活の基盤を作っておきなさい、と。30年以上も前から、農政の行き詰まりと食糧危機の到来を見通していたに違いない。

20/08/19 05:42

【産経抄】8月19日

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水うてば夕立くさき庭木かな 芝柏

 雪がしんしんと降る。静寂そのものの世界を、歌舞伎では、太鼓を打つ音で表現する。ドンドンドン…。作家の竹田真砂子さんによると、雪音と呼ばれるこの奏法が、初めて舞台に登場したのは、真夏のことだった(『歌舞伎ます』)。

▼ 寛政元年7月、中村座の出し物は「平家評判記」だった。奇抜を好む作者の桜田治助が、大詰めの喜界ケ島の場に、音をつけて、雪を降らせることを思いついた。客の入りの悪い夏芝居には、怪談物や水狂言など目先を変えた演目がかかることが多い。雪音もまた、冷房のない芝居小屋で、観客にひんやり気分を味わってもらう工夫のひとつだったのだろう。

▼ 土曜の夜は、浴衣姿のカップルや家族連れに交じって、隅田川花火大会を見物した。隅田川の川開きにあわせて、江戸両国に花火が上がるようになったのは、享保18年から。当時の花火は、豪華絢爛の今の花火に比べれば、地味で玉も小さかったが、川涼みに来る人のにぎわいは大変なものだったらしい。

▼ 日中は、銭湯の2階で居眠りをしたり、庭にたらいを出して、行水をしたりする。夕方になれば、路地に縁台を出して、将棋に興じる。江戸の人々は、さまざまな方法で、夏の暑さをしのいできた。

▼ なかでも最近、見直されているのが、朝夕、家の前の通りや庭に水をまく、打ち水の習慣だ。実際に2度ほど気温を下げることもわかっている。みんなで一斉にやれば、電力エネルギーの節約にも、ヒートアイランド対策にもなる。

▼ 「打ち水大作戦」なる官民あげての運動も、今年で6回目を迎えた。ただし水道水を使うのはご法度。風呂の残り湯などを使いたい。「水うてば夕立くさき庭木かな」(芝柏)

20/07/28 06:04

【産経抄】7月28日

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大いに盛上げたい東北の夏祭り

 何年か前の冬、桂米朝さんの東北公演を取材したことがある。山形では大雪の中での落語会となった。そこへ米朝さんの弟子の故桂枝雀さんが話しかけてきた。「外がこないな非常時やいうとき、落語でも聞きましょう、なんてよろしいですなあ。緊張の中の緩和で…」

▼ その東北地方に今年も、夏祭りの季節がやってくる。秋田の竿燈、青森のねぶた、仙台の七夕、どうしてどれもあんなに色彩豊かなのだろうと考えるとき、枝雀さんのあのニコニコ顔が目に浮かぶ。持論だった「緊張と緩和」論を思い出すのだ。

▼ 東北は山岳や森林が多いうえ、雪に閉ざされる期間も長い。恐らく関東や東海などの平野部に比べ、より強い緊張感で暮らしていかなければならない。だからこそ祭りになると、大きな緩和や解放感を求めてきたのだろう。それがあの明るさの源であるような気がする。

▼ しかし今年の祭りは新たな緊張感の中で迎える。言うまでもなく、立て続けに襲った地震の余波である。祭りを行うことには支障はなさそうだ。それでも、地震でケガをしたり復旧作業や後かたづけに忙しかったりで、まだその気分になれない人もいるだろう。

▼ それより地元の人たちが気にしているのは、東京などからの見物客のことだ。東北−地震のイメージが強くなり宿泊のキャンセルなども出ているらしい。足が遠のくことになっては、祭り気分が冷めるだけではなく、地震の被害にも追い打ちをかけてしまう。

▼ むろん、イザというときへの備えは忘れてはならない。だがそれはこの地震列島全部にいえることで、東北だけ特別ではない。それより、祭りを大いに盛りあげて被災地の人たちを励ましたい。枝雀さんではないが「緊張の中の緩和」である。

20/07/27 06:38

【産経抄】7月27日

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支那産ウナギから発癌性物質

 明日は土用の丑の日。丑の日だから「牛肉の日」でもよさそうなものだが、やっぱり夏はウナギに限る。丑の日がウナギ受難日となったのは、江戸時代の才人、平賀源内が流行らない鰻屋に「本日丑の日」の張り紙を店先に出すよう勧めたのが始まりとか。昔も今も江戸っ子は有名人と宣伝に弱い。

▼ 源内さんは「丑の日に『う』のつくものを食べると夏負けしない」という当時の俗説をウナギの消費拡大にうまく利用したようだ。時移って現代の商売人は、「国産」ものを食べると安全だという俗説をあこぎに利用している。

▼ 輸入ウナギに「愛知県三河一色産うなぎ」のシールをつけてぼろ儲けしようとした業者が摘発されたが、どうやら氷山の一角らしい。国内で“本当に”養殖されているウナギは消費量の2割にすぎないはずなのに、近所のスーパーでも「国産」モノが陳列ケースの大半を占拠しているのはどうしたことか。

▼ それもこれも昨年、中国産ウナギから発がん性物質が検出され、「中国産」への強い拒否反応があるからだろう。加えて毒餃子(ギョーザ)事件が明るみに出た今となっては、安くてうまいものが大好きな小欄とて手が出ない。

▼ 読者のみなさんには「危険なのは中国産のごく一部です」と声を大にして言いたいところだが、残念ながら証拠を持ち合わせていない。第一、発覚後半年がたとうとするのに毒餃子事件の真相は何一つ解明されていない。

▼ 昆明で起きたバス爆破を中国当局は、重大なテロ事件として扱い、雲南省内外で厳戒態勢をとって犯人逮捕に全力をあげている。毒餃子事件も重大な食品テロのはずなのに、捜査の動きは実に鈍い。このままうやむやになれば、中国ブランドは地に落ちたままになるというのに。

20/07/23 05:01

【産経抄】7月23日

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今の日本は休みが多過ぎる

 今年もエンジュが花を散らし始めた。最近、街路樹としておなじみになった高木である。歩道に落ちた淡黄色の小さな花に足元が気になりだすともう真夏の到来だ。関東地方でも梅雨が明けた。この連休から夏休みという学校も多いことだろう。

▼ 日本人が大人も子供も夏休みをとるようになったのは明治の初め、欧米の風習に倣ったのだという。日本の夏の方がはるかに暑い。だが米づくりにとって真夏は田の草取りなど大事な季節である。だからこの季節、長期に休むという発想はそれまでなかったらしい。

▼ そんなDNAを受け継いでいるせいか、今でも割り切って長い休みをとろうという日本人は少ない。妙な罪悪感すら持つ人もいる。72歳になったばかりの福田康夫首相もそうなのだろうか。今の短い休みの後はほぼ「不休」でこの夏を乗り切るおつもりのようだ。

▼ 今月末には内閣を改造する予定だという。その後五輪の開会式で北京を訪問、8月の20日過ぎには早々と臨時国会を召集したい意向だ。大臣の交代に備えたり法案の準備をしたりという官僚のみなさんも、ほとんど夏休みはとれないということになりそうである。

▼ もっとも、原油高対策や新テロ対策特措法の延長など宿題をいっぱい抱えた首相だから、仕方ないかもしれない。毎日汗水たらしている国民からは「当然」の声も聞こえるだろう。ただ気になるのは肝心の与党に首相の「やる気」に対し冷たい空気が漂っていることだ。

▼ 8月の国会召集に対し公明党が「9月でいい」なんて言いだした。自民党の実力者たちの会合でも「急がなくても」という声が出たという。支持率低迷の内閣を見限り始めたのか。夏は選挙区回りが忙しいからというのではないと思いたいが。

20/07/20 05:02

【産経抄】7月20日

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【正論】社会学者・加藤秀俊 珍妙な証明書「タスポ」の怪

≪人権団体容認の不思議≫

 自販機でタバコを買うときには「タスポ」(タバコ・パスポートの略)という身分証明カードが必要になったという。発行元の「日本たばこ協会」というのは民間団体である。それが購入者の住所、氏名、電話番号から登録番号、はては顔写真までを明示したICチップ内蔵の証明書がなければ売らない、というのはいったいなにごとであるか。

 旅券や運転免許証などの公的な身分証明ならまだわかる。その公的証明とおなじ詳細な個人情報を一民間団体が要求する根拠がわからない。

 さらに不審におもうのは個人情報やらプライバシーやら、なにかにつけてヤカましい人権団体、市民運動の諸氏が「タスポ」という非道な個人情報介入については沈黙を守っていることだ。

 これら人権団体からすれば喫煙というのはいまや「犯罪」なのだから犯罪者のプライバシーなど保護する必要はない、ということなのであろうか。

 それはともかくとして、「タスポ」の趣旨は「成年識別」のためでそれは「未成年者の喫煙防止」を目的とする、という。それならそれで結構だ。むかしのように、タバコはたばこ屋で買えばいい。自販機販売を廃止すればそれですべて解決するのである。それを廃止しないのはタバコを売りたいからである。売りたいのか売りたくないのか、なんだかこのあたりが煮え切らない。

≪売らんがための作戦?≫

 煮え切らないのはあたりまえ、この協会はその名のしめすようにタバコの業界団体だからである。本音はタバコを売りたいのである。それが証拠に「タスポ」の開発普及には自販機の業者団体も入っている。会長以下、理事は全員内外主要タバコ会社の社長さんたち。

 ひとりだけ常勤理事がおられるのはおそらく関連するお役所のOBであろう。職員の多くもたぶんお役人出身なのではないか。だから「タスポ」などという珍妙なものに巨額の費用を投資して「健康増進法」という法律遵守の格好をつけたつもりなのだろう。邪推だったらごめんなさい。

 それに未成年だからタバコはいけない、というのであったらアルコールだって事情はおなじである。いたるところの街角にはビール、発泡酒から酎ハイにいたるアルコール性飲料の自販機が林立している。フリーター諸君、高校生、さらに未成年の大学生は自販機で白昼堂々、ビールその他を買っている。

 18歳の新入生の歓迎コンパでの「一気飲み」なども周知の事実。法律違反は日常茶飯なのである。タバコとおなじく大目にみてはいけない。どんどん取り締まったほうがいい。

 そのためには、こっちもアルコール類販売にあたっての「成年識別」をするのが筋というものではないか。「健康増進法」はタバコの「受動喫煙」の害を強調するが飲酒が健康におよぼす危険についてはなにもふれていない。

 「受動飲酒」はありえないから、いい、という理屈か。それでも未成年の飲酒は禁止されているのだから、未成年者に自販機で発泡酒などを買わないように防止策としてあたらしくカードシステムを導入しなければ不公平である。アルコールをもじってかりに「アスポ」とでもしておくか。

 ≪健康第一の国是の弊害≫

 「健康」がそれほどだいじなら、食生活が原因で肥満体になったいわゆる「メタボリック症候群」についても対策を練ったほうがよかろう。ズボンの胴回りが85センチを超えたら「肥満」なのだというから、こういう人物には「健康増進」のために高カロリー食品は食べさせないほうがいい。

 これからは85センチ以下の人間だけに保健所の証明による仮称「メタスポ」カードを発行すべきである。その提示がなければ牛丼、ステーキ、トンカツ、焼き肉、シューマイ、天ぷらその他1000カロリーをこえる食品を提供してはならぬ。それを全国の飲食店に周知徹底して販売を禁止させるのがよろしい。

 なにしろ健康第一が国是なのだからタバコ、酒類はもとより高カロリー食品まで制限しなければ「健康国家」の面目がつぶれる。

 こんなふうに「タスポ」「アスポ」「メタスポ」まで際限なくカードをつくってひたすら健康増進に精励するのはまことに立派なことかもしれぬが、わたしはそんな「健康国家」の目標達成のために人生を送るなどというのはまっぴら御免である。

 「健康病」という重篤な病気にかかった国での人生はけっしてたのしく生きがいのあるものではなさそうだからである。お役人には天下り先がふえてうれしいかもしれないけれど。(かとう ひでとし)

20/07/10 05:36

【正論】社会学者・加藤秀俊 珍妙な証明書「タスポ」の怪

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【2008/07/10 05:00】 | 自然 生活 社会 医療 | トラックバック(0) | コメント(0)
支那産ウナギから発癌性物質

 「江戸前」という言葉から、すしを連想する人が多いだろう。もとは、深川などで取れた天然ウナギをさしていた。ところが、江戸にかば焼き屋が増えてくると、とても江戸前だけでは賄いきれない。

▼ そこで幅をきかすようになったのが、「旅鰻」と呼ばれる地方産だ。同じころ、平賀源内が知り合いのかば焼き屋に頼まれて、土用の丑の日にウナギを食べる風習を広めたといわれている。「丑の日にかごでのりこむ旅鰻」と川柳にも詠まれた。

▼ 今年の土用の丑の日、24日と8月5日を前にして、産地偽装事件の余波が収まらない。需要のピーク期に、輸入の養殖ウナギに頼るのは仕方がない。そうはいっても、中国からの旅鰻を、江戸前ならぬ国産と偽って、大もうけをたくらむとは。泉下の源内もあきれかえっているはずだ。しかも一部の中国産からは、発がん性物質が検出されたとあっては、消費者の不安は募るばかりだ。

▼ 万葉の昔から、日本人に親しまれてきたこの魚の生態は、長らく謎に包まれていた。3年前の6月、東京大学海洋研究所の研究船が、太平洋のマリアナ諸島西方沖で、ニホンウナギの赤ちゃんを見つけ、ようやく産卵場所を突き止めた。

▼ そこから日本や中国の沿岸にたどりつき、稚魚のシラスウナギに成長したところで捕獲され、養殖される。もっとも、3000キロもの旅程をこなす目的は、あくまで河川をのぼって成魚に成長することだ。

▼ 昭和40年ごろまでは、日本各地に生息していた天然ウナギは、河川の汚染やダム建設などによって減り続け、絶滅の危機さえささやかれている。今回の騒動が、安くて安全なかば焼きを求めるだけの消費のあり方を見直し、江戸前復活への契機になればいいのだが。

20/07/07 05:15

【産経抄】7月7日

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日本だけが努力しても温暖化は止まらない

 複数の地方自治体が、コンビニエンスストアに対する深夜営業規制を検討し始めた。二酸化炭素(CO2)の排出量削減やライフスタイルの改善が主な狙いだ。

 コンビニ業界の多くは、省エネの効果は薄いと反発する。CO2削減の面から言えば、確かに業界が言うように大きな効果は期待できない。

 だが、地球温暖化対策は、エネルギーを大量に消費する現在の便利な暮らしにどっぷり漬かったまま行えるほど甘くはない。

 温暖化への取り組みを本気で考えれば、現代人のライフスタイルを真剣に議論する必要もあろう。深夜規制の問題を一つの研究事例として、国民が幅広い議論を深めるきっかけにしてはどうか。

 コンビニの深夜営業をめぐっては、東京都や埼玉県、京都市の首長らが営業短縮の必要性について積極的に発言している。電力消費の削減のみならず、コンビニが深夜に若者のたまり場になっている。こうした夜型の生活の改善も念頭に置いているようだ。

 これに対しコンビニ各社が加盟する日本フランチャイズチェーン協会は、「朝7時から夜11時までに営業を短縮してもCO2削減効果は4%程度にとどまる」と主張する。照明を消しても冷蔵庫が稼働し続けるし、夜間電力の多くは、CO2を出さない原子力発電で供給されているためだ。

 経済活動が24時間化し、夜間に働く人も多い。コンビニは、そのような人々の買い物などの利便性に応えるために営業時間を拡大してきた。いまでは、公共料金の支払いや宅配便、設置してあるATM(現金自動預払機)から現金の引き出しなども可能だ。

 社会的インフラとしての重要性も増している以上、「コンビニだけを規制する意味はあるのか」という業界側にも一理ある。

 このように、双方の妥協点を見つけるのは容易ではない。そこで、一律に時間短縮するのではなく、深夜でも需要度が高い地域の店舗を除いて、実験的に導入するという方法も可能だ。業界の一部は営業時間の見直しに柔軟な姿勢を示している。

 コンビニはエネルギー消費を増大させてきた現代生活の象徴でもある。地球に優しい生活を心がける方向に人々の意識を転換させる効果が期待できるなら、深夜営業の自粛も取り組む価値があると考えてもいいはずだ。

20/07/06 05:33

【主張】コンビニ深夜規制 国民の幅広い議論深めよ

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【2008/07/06 05:00】 | 自然 生活 社会 医療 | トラックバック(0) | コメント(1)
偽善エコロジー

 久々に目から鱗の新書に出合った。題からして挑発的な「偽善エコロジー」(幻冬舎新書)だ。レジ袋を使わない運動は「ただのエゴ」と斬って捨て、牛乳パックのリサイクルは「意味なし」ととりつくしまもない。

▼ 冷房28度の設定で地球温暖化防止はできないし、生ゴミを堆肥にするのは危ない…。いつでもどこでも「地球に優しいエコ」と唱えたがる「環境教」信者のみなさんには目の毒だが、著者の武田邦彦・中部大学教授は資源材料工学の専門家。データも豊富でなかなか説得力がある。

▼ 偽善エコロジーはいたるところにころがっている。受信料をとる放送局は、「エコ放送」と称して説教くさい番組を垂れ流しているが、放送時間を短縮した方がよほど地球に優しい。

▼ コンビニエンスストアの深夜営業を規制しようとしている自治体も同じだ。店の冷蔵庫は24時間動いており、節約できる電力はしれている。それよりお役人のマイカー通勤を禁止した方が二酸化炭素(CO2)削減になるはず。

▼ まもなく環境が主要テーマとなる洞爺湖サミットが開幕するが、成果は期待薄だ。CO2を最も多く排出している米国のブッシュ大統領はもうすぐ前大統領になる。猛スピードで排出量が増えている中国やインドも経済優先の姿勢を崩しておらず、議長を務める福田康夫首相がいくら力んでも大勢は覆るまい。

▼ 武田教授は、人類全体が一致協力できない以上「温暖化を防ぐことはできない」と喝破する。ならば、首相は議長特権を生かして拉致や北方領土といった難問をどしどし議題にのせるべきだ。何事も波風を立てたくない首相には無理な注文とはわかっている。だが、見せ場の一つもつくらないと、北海道でサミットを開く意味はゼロだ。

20/07/02 05:37

【産経抄】7月2日

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【正論】菊竹清訓 東京での震災被害に備えて

≪後藤新平の描いた未来≫

 徳川家康が湿地帯だった関東平野の肥沃な土壌を開墾し、江戸の都市計画とともに水運事業を展開したのは、つい400年ほど前のことである。大正時代の関東大震災後、医学博士でもあった、時の東京市長・後藤新平は、英国人技師バルトンに東京の上下水道整備案を要請し、公衆衛生の向上に努めた。

 その後、急速な経済成長に伴い密集化した東京都心部は、緑地空間が減少し、自然災害に対する免疫力も失われ、やがて人体や地球環境に悪影響を及ぼすとまでいわれるようになった。果たしてこれが、後藤新平の描いた理想都市だったのか。

 都市問題の解決は、能率や安全・快適性を追求する都市の成長や発展に応じて、老朽化や複雑化した都市インフラを新しい状況にどう更新・対応させていくかにかかっている。安全面から考えても、林立する電柱や空中に入り組んだ電線は、ルートや容量が安定した時点で水道網や大容量電源設備などとまとめ、共同溝として地下に敷設する新しい統合ネットワークを考えるべきである。パリでは既に、かつての地下網を利用した、IT(情報技術)ネットワークを含むライフライン敷設が充実している。

 今、東京に、岩手・宮城内陸地震に匹敵する大地震や大規模災害、テロが起こったら、避難や救護に迅速な対応ができるだろうか。

 巨大都市東京の復旧には、想像を絶する時間と費用がかかるだろう。これらを未然に防ぐ方策は簡単ではないが、一つは「緑のネットワーク」づくりが、二次災害の抑制に一定の効果をもたらす。

 東京郊外を埋め尽くす過密住宅の抜本的な改善や、神社や寺院、墓地などの取り扱いも含め、農業や林業を中心に少しずつ森や緑地に変えていく地道な努力が必要である。

≪緑のネットワーク推進を≫

 これまで幾度も環状緑地帯の提案がなされてきたが、今こそ都民一丸となって、緑のネットワークを推進すべき時機ではないかと私は考えているが、どうであろう。

 東京都庁舎のある新宿副都心に限って言えば、残念ながら心もとない。元の水道局跡地であるにもかかわらず、緑とともに大切な水系ネットワークが生かされていないのである。

 こうした問題の解決には、やや手遅れの感はあるが、都庁舎を中心に、数層のプラットホームを持つ公共都市基盤をつくり、屋上は緑の広場とし、下層にパーキングやショッピング、駅やバスターミナルを設け、その周りに高層オフィスを配置し、都庁舎に直接アクセスできる3次元ネットワークが有効である。

 この手法で景観や美しさを取り戻し、日本の首都として品格ある環境の実現が可能である。

 都市機能の構築という点で、早稲田大学・平山博教授が戦前から理論的に進めてきた回路研究は注目に値する。その最も今日的な課題であるITネットワークにおいて、「情報ハイウェイ」を全土に展開すべきだと提唱したのは元電電公社副総裁・北原安定氏で、近年ゴア前米国副大統領の提言により世界的にも認識されつつある。

 しかし一方で、「サイバーテロ」という新たな脅威も浮上し、欧米では、情報混乱回避の対抗策が検討されているが、わが国も新たな事態に対応する都市ネットワークや監視機能について、早急に近隣諸国も含めた国際協議に入るべきである。

≪ローマの水道計画に学べ≫

 東京の500年後を考えれば、都市の水系ネットワークはますます重要になる。6月3日には、長年水道技術の発展に貢献してきた稲葉紀久雄大阪経大教授の主導で、水制度改革の国民会議設立総会が開かれ、多数の方々の賛同が得られた。

 水問題を、水道技術の限界として機械的に処理するのではなく、古代ローマの巨大水道橋建設に学び、地形の高低差を利用した浄化、再利用のシステムや、農業・景観などを考慮した水の循環、更新システムを統合的に考え、新世代エネルギーの導入にも対応できる、東京の新しいネットワークづくりへの課題とすべきである。

 先日、ボストンで行われた国際マクロエンジニアリング学会で、地球環境問題を含む大規模プロジェクトについての広範で忌憚のない議論に参加する機会があった。ここでは、いかに大規模プロジェクトが国の活性化に必要であるかが指摘された。

 わが国でも、もっと積極的に大胆な大規模プロジェクトを展開し、ITや水問題も含め、住民が真に健康で、安心安全、快適でいられる生活環境の実現を目指す、未来の都市環境ネットワークの模範を示していくべきではないか。(きくたけ きよのり=日本建築士会連合会名誉会長)

20/06/27 05:09

【正論】菊竹清訓 東京での震災被害に備えて

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紫陽花「花葉共ニ味ヒ苦シ」

 大きな水滴を浮かべたアジサイの葉の上を、角を出したカタツムリがゆっくり進む。立派なしま模様の殻がいかにも重そうだ。机の横にかかっているカレンダーは、おなじみの図柄だ。

▼ もっとも、ナメクジを目にすることはあっても、カタツムリはとんと見かけなくなった。そんな話をよく耳にする。今が盛りのアジサイは各地で咲き誇っているというのに。日本だけで800種類もあるカタツムリの生態は、実はまだよくわかっていない。

▼ 動ける範囲が狭いこともあって、気温が上がる一方、乾燥が進む都市部では、急激に数を減らしているという報告もある。ただ、カタツムリを見つけるには、落ち葉の下などをさがす方がいいそうだ。好物がアジサイの葉だ、という思いこみも間違っている。

▼ だったら余計に、人間が口にしていいわけがない。茨城県つくば市内の飲食店で、「鳥肉梅しそ和え」に添えられていた、アジサイの葉を食べた男女8人が、嘔吐などの症状を訴え、2人が病院で検査を受ける騒ぎがあった。

▼ アジサイの葉に含まれる「青酸配糖体」と呼ばれる有毒成分と、胃の中の消化酵素が反応してできた青酸(シアン)が原因だ。ちょうど今ごろの季節に鎌倉の飲食店で、やはり料理にあしらわれた一枝のアジサイを目にしたことがある。つくば市の店も料理に季節感を出そうとしたらしい。葉っぱだけだったら、おっちょこちょいで食い意地の張った小欄なら、シソの葉と間違えかねない。

▼ 大正9年ごろ、アメリカで数頭の牛と馬が中毒死した例がある。江戸時代の本草学(ほんぞうがく)の本は、毒草と指定していないが、「花葉共ニ味ヒ苦シ」と記している。食中毒はこれからが本番。口に入れるものには、慎重でありたい。

20/06/24 05:29

【産経抄】6月24日

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【正論】中原英臣 「千円たばこ」は一石六鳥

≪いいことずくめの提案≫

 この30年の間で日本とアメリカでは、国民の健康について大きな差が生じてしまった。アメリカではがんの死亡率が平成6年から確実に減少傾向に転じたというのに、日本では逆にこの30年間で3倍に増えてしまった。

 日本人の死因としてがんに次いで多い心筋梗塞の年間死亡数も、この30年でアメリカは3分の1も減ったというのに、日本では逆に1・6倍に増えてしまった。喫煙はがんだけでなく、心筋梗塞に対するリスクも高いことがわかっている。

 がんと心筋梗塞に対する喫煙のリスクについては明確なデータがあることを考えると、日本人とアメリカ人の健康に大きな差が生じた大きな理由の一つは、両者の喫煙率の差と関係があるというしかない。

 昭和40年代に50%を超えていたアメリカ人の成人男性の喫煙率は現在23%まで低下したというのに、日本人の成人男性の喫煙率は46%と先進国の中では突出して高いといわざるをえない。

 こう考えると、日本人の喫煙率を低下させなくてはならない。その方法として笹川陽平氏がこの「正論」欄で2回にわたって提唱しているのが、現在300円前後のたばこを1箱1000円に値上げすることである。

 たばこを1箱1000円にすることは、国民にとっても国家にとってもいいことずくめで一石六鳥になる。笹川氏は1000円のうち90%を税金にすることを考えているようだが、ここでは現在の63%という税率として話を進めてみたい。

≪重病数も医療費も減る≫

 まずたばこの栽培農家とJT(日本たばこ産業)の利益が増える。たばこの税率は63%だから、1箱300円では110円しか利益がないが、1箱1000円なら370円の利益になるから、喫煙者が現在の3分の1以下に減らないかぎり利益は増える。

 厚労省所管の医療経済研究機構の調査によると、たばこが1箱1000円になったら6割余の喫煙者が禁煙すると回答しているが、いきなり喫煙率が3分の1に減るとは思えない。

 二つ目は青少年の喫煙率が減少するという効果が期待される。たばこが1箱1000円なら、はじめから吸わない若者が増えることは間違いない。特に若い女性の喫煙率は確実に下がるはずである。麻薬や覚醒剤への第一歩といわれる青少年の喫煙者を減らすことは、国家百年の計といっても過言ではない。

 三つ目は税収が増えることである。笹川氏は9兆5000億円の増収になると試算しているが、ここでは税率を63%とした厚労省の試算によると、喫煙者の6割余が禁煙したとしても、税収は1兆円も増えることになる。

 四つ目は喫煙率が下がれば下がるほど、がんや心筋梗塞といった生活習慣病が減ることになり、その結果、医療費を削減することができる。同研究機構は喫煙によって1兆3000億円の医療費が余計に使われていると試算しているが、アメリカのように喫煙率を半分に減らすことができれば、医療費を6500億円も削減することができる。

 五つ目は火事が減ることである。笹川氏は、全火災のうちたばこが原因で起きている火災が10・5%もあるので、禁煙は確実に火災予防に対する効果があるのは間違いないと書いている。

≪「先進国」らしい対応を≫

 最後は、何よりも多くの国民が健康になることである。がんや心筋梗塞はもちろん慢性閉塞性肺疾患もたばこが原因といわれている。こうしたことを考えると、たばこを1箱1000円にすることは一石六鳥ということになる。

 喫煙者の方はたばこが1箱1000円になることには反対と思われる。しかし、公的医療保険や民間の生命保険の負担は、心筋梗塞やがんになるリスクが高い喫煙者と、そうでない非喫煙者の間に差がない。このことは喫煙者のリスクを非喫煙者が負担していることを意味する。

 こうしたことを考えるなら、喫煙者もたばこを1000円にすることくらいは受け入れるべきではないだろうか。フィンランドやイギリスではたばこは1箱1000円以上しているし、アメリカでも7〜8ドル(735〜840円)である。このように先進国でたばこが1箱300円などという国はないのが現実である。

 アメリカから輸入したたばこをアメリカより安く売っている日本という国は、国民の健康という視点からみると、とても先進国とは思えない。政府も国民の健康、医療費の削減、税収の増加のためにも、笹川氏の1箱1000円への値上げという提言を真剣に検討すべきである。(なかはら ひでおみ=新渡戸文化学園短期大学学長)

20/06/23 06:38

【正論】中原英臣 「1000円たばこ」は1石6鳥

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【2008/06/23 05:00】 | 自然 生活 社会 医療 | トラックバック(0) | コメント(0)
【主張】外国人看護師 高度人材確保のモデルに

 経済連携協定(EPA)に基づくインドネシア人看護師と介護士の受け入れが早ければ7月下旬から始まる。医療や福祉分野での外国人労働者の本格的受け入れは初めてである。

 少子高齢化で労働人口が減る中で、日本は外国人労働力の活用が課題だ。今回の受け入れを人手不足を補う安価な労働力と見なすことなく、長期的視点から海外の高度人材受け入れを考えるモデルケースとしたい。

 この受け入れは、人材の輸出を図りたいインドネシア側の要求で実現の運びとなった。日本側には慎重論もあったが、他のアジア諸国とのEPA交渉を円滑に進める狙いもあって同意した。

 介護士らの人材確保に悩む日本の福祉団体などが「外国人労働力に頼らざるを得ない」と政府に訴えていた経緯もあった。現在、インドネシア側で人選が、日本側で受け入れ介護施設の募集・審査が行われている。

 しかし、今回の受け入れをめぐる双方の溝はまだ埋まっていない。インドネシア人は母国で資格を取得して来日しても、日本の国家資格を取得するまで正規の看護師や介護士とは認められない。

 その間は助手としての身分で、看護師は3年、介護士は4年以内に日本の国家試験に合格しないと帰国しなければならない。このハードルは相当高い。

 日本の受け入れ施設側にも課題が多い。日本人職員と同等の給料と身分保障が条件とされるが、日本も労働環境は厳しい。

 外国人だからといって低賃金労働を強いたら、EPA協定に反すると批判されよう。来日する看護師たちの大半はイスラム教徒とみられるから、礼拝や食事などへの配慮も必要だ。

 日本国内にはすでに約75万人の外国人労働者がいる。その中で、専門性や技術がある高度人材は全体のほぼ2割にとどまる。残る8割は留学生のアルバイトや研修・技能研修生である。

 外国人の単純労働を認めないという建前とは裏腹に、現実には別の制度で受け入れているわけだ。これが不正雇用の温床になっているとも指摘されて久しい。

 政府や自民党はようやく抜本的な制度見直しに動き始めた。EPAは日本の労働市場の本格的な開放につながる可能性が高い。優秀な海外人材確保のためにもきちんとした制度設計が急務だ。

20/06/23 05:01

【主張】外国人看護師 高度人材確保のモデルに

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【主張】医師不足 勤務医の労働環境改善を

 医師不足を解消するための厚生労働省の「安心と希望の医療確保ビジョン」がまとまった。これまでの医師養成数の抑制方針を百八十度転換し、医師の増員を打ち出す内容である。

 しかし、医師不足は単純に全体的な医者数を増やせば、解決する問題ではない。
 現在、不足しているのは病院勤務医であり、増やした医師がビル診(オフィス街のビルの診療所)などの開業医に流れるようでは意味がない。大学医学部の定員数を増やしても実際に医師が増えるには10年はかかり、当面の医師不足にはほとんど効き目がない。

 拘束時間が長く、医療事故の訴訟が多いなどその勤務の過酷さから敬遠されがちな産婦人科や小児科、麻酔科、救急医療などの病院勤務医の労働環境を改善して重点的に支援する必要がある。

 そのためには産科や小児科に多い女性医師を積極的に活用したい。結婚や出産で病院を辞めることが多い女性医師に民間企業と同じように短時間労働制度を適用し、夜勤や泊まり勤務をなくす。病院内に保育所を設けるのも有効な手段だろう。

 次に診療報酬を手厚く配分して勤務医の収入を引き上げる。その分、国民の医療費負担が増えないように開業医の診療報酬を引き下げる必要がある。開業医の年収が勤務医の1・8倍にも上ることを考えれば当然だ。

 医師を補助する医療クラーク(事務員)制度を充実させたり、看護師や助産師らの資質を向上させたりして医師の仕事量を少しでも軽減することも大切である。

 地方の郡部で医師が不足する地域的偏在も大きな問題になっている。これを解決するには、研修医が都市部に集中して医師不足を表面化させた臨床研修制度(平成16年に必修化)を必要に応じて見直さなければならない。医師数の余裕のある地域から不足する地域へ短期間、医師を派遣するシステムもさらに拡大していきたい。

 こうした対策の大半は医療ビジョンでも掲げてはいるが、対策を確実にひとつひとつ実行していくことが何よりも肝要である。

 医師は国民の健康を支える公共性の強い存在である。医療ビジョンでは医師に対する厚労省の権限を抑制しているが、厚労省がある程度規制し、医師が特定の診療科に集中する偏在や地域的偏りを解消することも必要だろう。

20/06/20 06:21

【主張】医師不足 勤務医の労働環境改善を

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【2008/06/20 05:00】 | 自然 生活 社会 医療 | トラックバック(0) | コメント(0)
「俄医者、三丁目にて見た男」

 小石川養生所の「赤ひげ」と呼ばれる医長、新出(にいで)去定(きょじょう)は、機嫌が悪かった。幕府が、財政難を理由に、養生所の経費を3分の1も削るよういってきたのだ。だからといって、貧しい患者の治療をやめるわけにはいかない。

▼ 去定は、美食が過ぎて病気になった、いまでいうメタボの大名から高額の治療費をふんだくって穴埋めすることにした。山本周五郎の『赤ひげ診療譚』は、黒澤明監督、三船敏郎主演で映画化され、その後テレビドラマや舞台にもなった。

▼ 理想の医者として、今も「赤ひげ先生」を望む声は絶えないけれど、ぜいたくをいっていられなくなってきた。医師の数そのものが足りなくなっているという。地方の病院では、お産ができず、救急患者を受け入れることもできない事例が続出している。

▼ 厚生労働省では、これまでの抑制方針を転換して、医師養成数を増やすことにした。もちろん、負担が重い病院勤務を避けて開業独立をめざす傾向が強まり、産婦人科、小児科など不足が特定の診療科に集中している問題は、これだけでは解決しない。増加分が去定のいう「金儲けめあての藪医者、門戸を飾って薬礼稼ぎを専門にする似而非医者ども」ばかりになっても困る。

▼ 何より、患者の数が減らないことには、いつまでたっても医師の不足は続く。実は江戸時代だったら、同じ問題が起こりようがない。医者になるための資格や免許がなかったからだ。川柳の「俄医者、三丁目にて見た男」なんてことも、ありえた。

▼ 「赤ひげ」もいたかもしれないが、やぶ医者の方がずっと多かったろう。庶民はなるべく医者にかからなくていいように、養生本の教えを守り、暴飲暴食を慎んだ。現代人も見習っていいライフスタイルだ。

20/06/20 06:22

【産経抄】6月20日

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【2008/06/20 05:00】 | 自然 生活 社会 医療 | トラックバック(0) | コメント(0)
恥づかしい名「東京スカイツリー」

 五重塔が地震に強いことはよく知られている。約1300年前に建立された奈良の法隆寺の五重塔をはじめ、江戸時代以前に建てられた塔は、全国で22基残っている。何度も地震に遭っているはずだが、倒壊の記録はないそうだ。

▼ 東京都墨田区で平成24年春に開業する新タワーは、610メートルという途方もない高さになる。「東京スカイツリー」の名称が決まった塔にも、五重塔の構造が生かされ、大地震に備えるという。日本古来の匠の技と最先端技術がどんなふうに結びつくのか楽しみだ。

▼ 昭和33年に完成した東京タワーを設計した内藤多仲(たちゅう)は、「塔博士」と呼ばれた。世界一のエッフェル塔(320メートル)を高さで凌ぎ、なおかつ低予算、短期間で完成させる。発案者で、当時小紙の社主だった前田久吉の無謀な注文に見事に応えた。

▼ その快挙は日本よりむしろアメリカで先に有名になった。ニッカーボッカーに地下足袋姿のとび職人が、鉄骨の上を身軽に渡り歩く姿をとらえたドキュメンタリー番組が、全米で放映されていたからだ(『発明立国ニッポンの肖像』上山明博著、文春新書)。ものづくり大国ニッポンの面目躍如といえる。

▼ 最近こんなエピソードを聞くことが少なくなった。それどころか、きのうの小紙は、米アップル社の携帯電話の新モデルがまもなく上陸し、ブームを巻き起こすことは間違いない、と伝えていた。日本はケータイ先進国のはずだったのに。

▼ 日本水連が、北京五輪で日本選手に、英スピード社製水着の着用を認めたニュースもそうだ。新記録ラッシュとあっては仕方あるまい。国内3メーカーには捲土重来を促したい。もっとも、今回の水着騒動は、発明立国日本そのものへの、警鐘かもしれない。

20/06/12 04:33

【産経抄】6月12日

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【2008/06/12 05:00】 | 自然 生活 社会 医療 | トラックバック(0) | コメント(0)
昔から評判が悪かったサンマータイム

 テレビアニメの「サザエさん」が今秋で放送開始40年目を迎えるという。カツオやワカメがいつまでも年をとらないのも長寿の秘訣とにらんでいるが、原作の「サザエさん」が福岡の「夕刊フクニチ」で産声をあげたのは、終戦直後の昭和21年。タラちゃん以外はみな戦前生まれだ。

▼ サザエさん一家は占領期に導入された「サンマータイム」(当時の表記)を経験済みだ。作者の長谷川町子さんにとっては、ネタの宝庫だったようで、隣のおばあさんが時計の針を1時間逆に遅らせてしまった、といったギャグを連発している。

▼ 評判の悪かったサンマータイムは、日本の独立回復を機に打ち切りとなったが、地球温暖化対策として復活の機運が高まっている。涼しい朝に働き、日の高いうちに家に帰れば、冷房のための電力が節約でき、夕方は家族一緒にレジャーも楽しめるというのだが…。

▼ 福田康夫首相が発表した「福田ビジョン」では、サマータイムについて「早く結論が得られるよう期待する」と与党の意見集約を待つ姿勢を示した。2年後からの導入を明記する動きもあったというから朝寝坊派にとっては油断ならない。

▼ 早起きは三文の徳なのは小欄とてわかっている。しかし、朝早くから満員電車に揺られて会社でこき使われ、夕方になれば家族サービスでまた汗をかかされては、お父さんたちはたまったものではない。

▼ 効果があやふやなサマータイムよりやるべきことはいくらでもある。太陽光発電やガソリン使用量を劇的に減らす次世代自動車の普及を急ぐのがスジだし、子供たちには資源を無駄遣いさせない教育が必要だ。何より無駄な仕事しかしていない役所や国会議員をリストラするのがCO2削減の近道ではあるまいか。

20/06/11 04:59

【産経抄】6月11日

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【2008/06/11 05:00】 | 自然 生活 社会 医療 | トラックバック(0) | コメント(0)
日々の糧に感謝

 モンスーンとは第一義的にはインド洋北部のアラビア海を渡る季節風の呼称である。だがインドなどでは夏の南西季節風がもたらす雨期のことも指すという。日本の梅雨のようなもので、始まるのもちょうど梅雨入りと同じ今ごろだそうだ。

▼ モンスーンの雨は気まぐれで、降り過ぎたり降らなかったりする。だからかつてインドの大蔵大臣が「インドの財政はモンスーン・ギャンブルである」と述べたという。倉嶋厚氏の『季節おもしろ事典』に出てくる話で、農作物も経済もモンスーンの雨次第というわけだ。

▼ だいぶ前のことだろうから今も当たっているかはわからない。しかし考えてみれば日本の稲作もずっと気まぐれな梅雨や夏の天気に泣かされてきた。少雨や日照不足が起きるたびに何度も飢饉に見舞われ、社会問題となった。他の多くの国でも似たり寄ったりかもしれない。

▼ だが最近の世界的食糧不足や価格高騰は天気だけのせいにできないから厄介だ。トウモロコシなどの穀物から作るバイオ燃料が飛躍的に増えていることが指摘される。中国やインドなど人口の多い国の食生活が豊かになり輸出に回らなくなったせいという見方もある。

▼ 食糧輸入国や穀物不足に悩む国にとっては「バイオ・ギャンブル」であり「大国ギャンブル」なのかもしれない。しかしそれぞれの国の利害がからむだけに調整は難しい。先日の食糧サミットでは、バイオ燃料生産国とその他の国で激しい応酬があった。

▼ 食料の半分以上を輸入に頼る日本にとって大きな外交課題だ。だが同時に、日本人が取り戻すべきこともあるような気がする。日々の糧に感謝し、好き嫌いや食べ残しを戒めるという「飽食の時代」以前ならみんなが持っていた精神である。

20/06/08 05:38

【産経抄】6月8日

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【2008/06/08 05:00】 | 自然 生活 社会 医療 | トラックバック(0) | コメント(0)
【主張】出生率 総力挙げて少子化対策を

 1人の女性が生涯に産む子供数の推計値である合計特殊出生率が、平成19年は前年を0・02上回り1・34となった。2年連続での上昇だ。

 20代後半の女性を中心に産む人は減った。その一方で、団塊ジュニア世代を中心とする30代以降の女性に産む人が増え、第3子以上の出生数が多くなったことが一因だ。だが、連続上昇を手放しで喜ぶわけにはいかない。

 出生数は前年より約3000人減り、6年ぶりの増加となった前年から再び減少に転じた。少子化傾向には依然、歯止めはかかっていないと認識すべきである。

 出生数が減ったにもかかわらず出生率が上がったのは、出生数の減少が小幅だったのに対し、出産適齢期の女性数の減少幅が大きかったためだ。いわば、分母が減ったことが理由だ。これでは、出生率改善は“数字のマジック”といえよう。

 人数が多い30代が出産適齢期を過ぎれば、子供を産める女性人口は急速に減る。早急に手を打たなければ、少子化は政府の予測より早まるだろう。

 少子化の背景の一つに未婚・晩婚化がある。ところが19年の平均初婚年齢は夫、妻ともに0・1歳上昇した。ライフスタイルの多様化で結婚や出産をしない選択をする人も少なくない。だが、不安定な非正規労働者や低収入で結婚ができないという若者も多い。政府には、「就職氷河期」世代を含めた、若者の雇用環境の改善に本気で取り組むよう求めたい。

 結婚した後も「仕事か、子育てか」の選択を迫られ、産みたくても産めない環境がある。保育園や学童保育も足りない。教育費をはじめ子供を育て上げるには膨大なお金がかかる。こうした理由で、第2子や第3子をあきらめざるを得ない夫婦も少なくない。企業側の理解と協力も不可欠だ。

 昨年末、政府の「子どもと家族を応援する日本重点戦略検討会議」は、新たな少子化対策をまとめ、追加費用として年間1・5兆〜2・4兆円が必要と試算した。少子化の処方箋はおおむね出そろっている。もはや、政府には予算をどう捻出し、実行に移すかの決断のみが求められている。

 団塊ジュニアは年々、出産適齢期から離れていく。残された時間はわずかだ。安定財源の確保策を早急に明確にし、政府総がかりで対策に取り組むべき時だ。

20/06/08 05:37

【主張】出生率 総力挙げて少子化対策を

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魚の消費量が多い国ほど殺人事件が少ない

 魚を食べるとキレにくくなる。小紙大阪版の連載記事をもとにした『検証!日本の食卓』(集英社)のなかで、こんな調査結果が紹介されている。大学生や小学生に、魚油に多く含まれているDHA(ドコサヘキサエン酸)を与えた場合とそうでない場合を比べるテストで明らかになった。

▼ 魚の消費量が多い国ほど、殺人事件が少ないというデータも、平成13年に米国で発表された。縦軸に人口10万人当たりの殺人による死亡者数、横軸に魚の消費量をとったグラフでは、確かに日本が一番右下に位置している。

▼ そんな国で、今血なまぐさい事件が相次いでいる。通勤電車のなかで、些細なことから言い争う光景も珍しくなくなった。日本人がキレやすくなったのは、魚を食べなくなったからではないか。先週発表の平成19年度「水産白書」をみて、こんな仮説を立てたくなった。

▼ 日本人の1人当たりの魚介類の消費量は、13年の年間40キロをピークに、18年は32キロまで落ち込んだ。もっとも、回転寿司は繁盛しており、魚自体が嫌いになったわけではなさそうだ。白書によれば、各家庭で調理の簡単な生サケの購入が増え、皮むきなど手間のかかるイカの購入が減った。

▼ 近海の地魚をさまざまに工夫して、食卓に載せてきた魚食文化の危機といえる。白書は、近海の旬の魚をせめて月にもうひと皿、メニューに加えようと、呼びかけている。そうすることで、水産物の自給率も現在の59%から4%上がると試算する。

▼ 今の季節ならカツオのたたきがおすすめだ。早速、スーパーの鮮魚売り場に出かけたものの、刺し身用はあっても皮付きのたたき用のカツオは見当たらない。火であぶる手間さえ、厭う主婦が増えているのだろうか。

20/05/26 05:18

【産経抄】5月26日

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【主張】医師不足 地域と診療の偏在なくせ

 仕事のきつさに勤務医が疲れ切って病院を辞め、産婦人科や小児科が閉鎖されていく。救急隊が連絡しても「医師の手が足りない」と病院に断られる。どれも医師不足の深刻化で、日ごろ見聞される光景である。

 医師不足には大別して(1)医師数そのものの不足(2)地域的偏在(3)診療科ごとの偏り−の3つがある。医師不足の問題を解決しないと少子高齢化の進展とあいまって医療が根本から揺らぎかねない。

 平成18年の人口1000人当たりの日本の医師数は2・1人で、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均を下回る。厚生労働省の試算でも需要に対する医師数は不足している。それゆえ厚労省と文部科学省は医師の定員(医学部の学生数)を増やしてはいる。しかし、医師の養成には時間がかかる。まずは可能な地域的偏在をなくすことから取り組みたい。

 厚労省が18年12月末時点の届け出をもとに、女性と子供それぞれ10万人当たりの産婦人科と小児科の医師数を都道府県別に初めて集計したところ、最多と最少でいずれも倍以上の開きがあった。都道府県内でも都市部に医師が集中し、郡部に少ないとの調査結果もある。間違いなく地域的に医師が偏在している。

 厚労省は医師数が足りている地域から医師不足の地域に医師を短期間派遣するシステムの構築を進めている。この対策を全国でもっと活性化させる必要がある。

 一方、拘束時間が長く、勤務がきつい診療科ほど医師が減る診療科ごとの偏りもある。産婦人科や小児科、麻酔科、救急医療を中心に勤務医が不足し、彼らがさらに過重労働となる。

 厚労省は(1)医師の事務を補助する医療クラーク(事務員)制度を導入する(2)診察時間を延長した診療所に対する報酬を手厚くして開業医に患者を分担する−といった対策をとっている。こうしたきめの細かい対策を施していくことも重要だろう。

 根本的には国民ひとりひとりが健康を維持する努力を若いときから怠らないことが大切だ。そうやって各自が病院にかかる回数を少しでも減らすことも立派な対策になるだろう。

 政府は医師不足の問題を含めた医療体制整備のビジョンを5月中にもまとめる方針だ。国民が真に安心して希望が持てる医療展望を描いてほしいものである。

20/05/12 05:51

【主張】医師不足 地域と診療の偏在なくせ

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【主張】鳥インフルエンザ 防ぎたい養鶏場への感染

 秋田県の十和田湖畔と北海道の野付半島やサロマ湖畔で死んだハクチョウから鳥インフルエンザウイルスが検出された。いずれも毒性の強いH5N1タイプのウイルスである。

 感染した鳥と濃厚に接触しなければ、人には感染しないとされる。しかし、衰弱したり、死んだりした野鳥にはむやみに素手で触るべきでない。

 ハクチョウの死骸が見つかった現場周辺の養鶏場では、防鳥ネットで鶏舎にウイルスを運び込む野鳥や小動物の侵入を防ぎ、鶏舎内の消毒も徹底すべきだ。養鶏場のニワトリに感染させないことが重要だからだ。動物園やペットの家禽にも注意したい。

 H5N1ウイルスにニワトリが感染すると、全身でウイルスが増殖し、内臓から出血して死んでいく。死んだニワトリのとさかや脚も内出血している。その症状からエボラ出血熱にたとえて「鳥エボラ」と形容するウイルス学者もいるほどである。

 養鶏場で感染があった場合、感染の拡大を防ぐにはニワトリを大量に殺処分しなければならず、養鶏業者は経済的打撃を被る。

 それに養鶏場にウイルスが蔓延すると、人が大量のウイルスと接触して感染する可能性がある。東南アジアや中国などでは人が感染死している。何よりも怖いのは、ニワトリの間で感染を繰り返してウイルスが人から人に次々と感染する新型インフルエンザウイルスに変異する危険性である。

 養鶏場で感染が見つかったときは速やかに都道府県に届け出るべきだ。4年前には、京都の養鶏場で届け出が遅れて被害を拡大させ、家畜伝染病予防法違反の罪に問われたうえ、経営者夫婦が自殺に追い込まれた。2年前にも、茨城県警が養鶏場を経営する獣医師らを感染を知りながら届けなかった疑いで逮捕した。

 アジアではすでに鳥の間にH5N1ウイルス感染が広がり、韓国ではニワトリへの感染が全国的に拡大している。

 日本でもこれまでに山口、大分、宮崎、岡山などの養鶏場がH5N1ウイルスの被害に遭った。熊本では昨年3月、野生のクマタカから確認された。今回、渡り鳥のカモが日本に持ち込み、シベリアなどの北方に戻る途中にハクチョウに感染させた疑いがある。渡り鳥を介しての日本国内への侵入を警戒したい。

20/05/11 05:02

【主張】鳥インフルエンザ 防ぎたい養鶏場への感染

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食べ残しに食べ物の神様は

 共同通信の記者だった辺見庸さんが、駅前広場の屋台に入ると、ブリキの大皿にご飯が山盛りになっていた。骨つきの鶏肉も載って、値段はわずか十数円。二口、三口、次に骨つき肉を口に運ぼうとしたとき、現地の案内人が叫んだ。「それは、食べ残し、残飯なんだよ」。

▼ 世界各地の『もの食う人びと』(角川文庫)を訪ねる旅のはじまりは、バングラデシュだった。辺見さんが思わず皿をほうり出すと、少年の細い腕が伸びてきて、奪い取っていく。首都ダッカには、残飯市場があった。辺見さんの「舌は恐怖におびえて硬直し、胃袋もまた石ころみたいに小さくこわばってしまって」いく。

▼ 昨年、牛肉の産地偽装などが発覚した大阪の高級料亭「船場吉兆」では、客の食べ残しを、残飯市場に出す代わりに、別の客に回していた。1人数万円の料金を払い、盛り直された刺し身や、2度焼きのアユの塩焼きを食べさせられたことになる。

▼ 「食べ残しではなく、手つかずの残された料理」。女将の湯木佐知子社長の弁解は通らない。再建を応援していた常連客も、さすがに開いた口がふさがらないだろう。使い回しの誘惑にかられるほど、食べ残しが出ることにも驚く。自分のお金で飲み食いしない、接待の客がそれだけ多いということか。

▼ 食料自給率が4割に満たない日本が、年間2000万トンもの食品を廃棄している。米や小麦など穀物価格の急騰により飢餓への不安が広がり、世界のあちこちで暴動さえ起こっているというのに。

▼ 「残飯を食らう者。大量輸入しては食い残す者。食の神様がいたら、間違いなく前者に涙し、後者には飢渇のなんであるかをいつか思い知らせるのではないか」。辺見さんの予言が不気味に響く。

20/05/09 05:05

【産経抄】5月9日

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端午の節句、今年は六月八日

 先日、楽天イーグルスの野村克也監督と母堂のことを書いたら、東京都八王子市に住む荒木幸三さん(72)から、お手紙をいただいた。定年まで勤めた食品メーカーの社訓は、「親孝行」だったという。

▼ 山形県の農家に生まれた荒木さんは、高校卒業後の昭和29(1954)年、この会社に入った。「親孝行のできない社員は、いくら頭がよくても仕事ができても、当社の社員としてふさわしくない」。これが、創業者から最初にかけられた言葉だった。

▼ 9歳のとき生母と死別した創業者が大切にしていたのは、米国で研究に没頭する野口英世あてに、母シカが送った手紙の複製だった。たどたどしい文字で、「はやくきてくたされ」と繰り返される、有名な手紙だ。

▼ 荒木さんが入社してまもなく、「親許送金制度」が始まった。毎月1回、創業者が会社の業績や近況などをしたため、現金1000円を同封して、社員の親元に送るというもの。数年後には中元、歳暮の季節に、会社の製品も送るようになった。

▼ 「親孝行を口でいうだけではなく、会社がその範を示さなければ、という発想です」と荒木さんはいう。制度はほぼ同じ形で今も続いている。「自慢するようなことではありませんので」と広報担当者はいたって控えめだ。というわけで、誰でも知っている会社だが、社名は明かせない。

▼ きょうは「こどもの日」。昭和23年に施行された祝日法には、「こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかるとともに、母に感謝する」とある。親孝行の日でもあった。愛知県豊田市で、下校途中の15歳の女子高校生が殺された。看護師の母親にあこがれ、自身も医療の道をめざす、親孝行の娘さんだった。こどもの日には、つらすぎる事件だ。

20/05/05 05:02

【産経抄】5月5日

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【産経抄】煙草の自動販売機を廃止しよう

 たばこ1箱の値段を欧米なみの1000円に上げるべきだ。日本財団会長の笹川陽平氏が正論欄で行った提案が、大きな反響を呼んでいる。神奈川県の松沢成文知事は、居酒屋、パチンコ店まで含めた公共の施設での喫煙を禁じる条例の成立を目指す。

▼ 喫煙者の肩身は狭くなるばかりだが、フランスでは、路上へ追い出されたというのにとても楽しそうだ、と山口昌子パリ特派員が伝えていた。「火をお持ちですか」と男性が女性に声をかける常套句の成功率が上がったからとか。禁煙法批判で会話が盛り上がり、寒い季節なら人のぬくもりが「物理的に」必要になる…。

▼ 日本でもたばこが恋のきっかけをつくった時代があった。たばこ屋の店先にすわる看板娘を目当てに、毎日買いに行く若い男も多かったらしい。うちとけていく2人の様子を、ユーモラスに描いた「タバコ屋の娘」なんて流行歌もあった。

▼ 「タバコ屋の看板娘孫を抱き」。小紙の川柳欄にあった作品だが、いまではおばあさんの姿も見かけない。看板娘に取って代わった自動販売機の設置台数は、今や全国で48万にのぼる。その自販機でたばこを買うのに必要な、成人識別ICカード「タスポ」が、7月までに全国で導入される。

▼ 未成年者がこっそりたばこを購入することができなくなるから、12年間続いてきた深夜の販売自主規制も解除するそうだ。ちょっと待ってほしい。親や先輩のカードを持ち出す不心得者もいるだろうし、個人情報が漏れる心配もある。

▼ 初期費用だけで1000億円もかけるくらいなら、看板娘を復活させてほしかった。たばこの害の議論はさておき、この国では人と人をつなぐ小道具としてのたばこの役割は、終わってしまったのだろうか。

20/04/28 05:04

【産経抄】4月28日

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【産経抄】人はなぜ花を愛でるのか

 色鮮やかな花々が朝の光に輝いている。出勤の途中、手入れの行き届いた庭を通りかかると、気分が浮き立ってくる。「人はなぜ花を愛でるのか」。こんなテーマで2年前、京都でシンポジウムが行われたことがある。

▼ イラク北部の洞窟では、約6万年前に埋葬されたネアンデルタール人の骨の周りに、たくさんの花粉が見つかった。当時から死者に花を手向ける習慣があったのではないか、いまも論争が続いている。一方で約1万5000年前、フランスのラスコーの洞窟に描かれた壁画の絵柄に、動物はあっても、花はない。

▼ 日本の縄文土器にも花を表現したものは見当たらない。地球上にきれいな花がたくさん登場するようになったのは、人が農耕を始めてからのことだという。原始林が切り開かれて、できた草地に適していたのが、花を付け種子を残す植物だったからだ。

▼ 人は花の色で衣服を染め、髪飾りを作った。文字や絵画の歴史が始まると、花は詩歌や物語、造形美術で表現されるようになる。花はまた、病人のお見舞いやお祝いのための贈答品としても使われてきた。

▼ さまざまな分野の専門家の発表をもとに、都市文化研究者の白幡洋三郎氏は、こう推論する。群れをなして生きてきた人は、人と神、人と人との間を取り持つ「なかだち」の役割を花に期待してきたのではないか(『人はなぜ花を愛でるのか』八坂書房)。

▼ 全国各地で、花や木が切り取られたり、踏みつけられたりする被害があいついでいる。前橋市では地元の人たちが大切に育ててきた2000本近くのチューリップが切り落とされている。犯行の動機は想像もつかないけれど、「なかだち」を失った世の中を象徴するようないやな事件だ。

20/04/21 06:02

【産経抄】4月21日

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【2008/04/21 05:00】 | 自然 生活 社会 医療 | トラックバック(0) | コメント(0)
【産経抄】魚谷常吉『味覚法楽』

 桜鯛とは、桜の季節の真鯛を指す。産卵をひかえて、身はピンク色に染まり、脂ものっている。刺し身、煮物、しゃぶしゃぶ、なんでもござれだが、なにより骨の味がいいことを、『味覚法楽』(中公文庫)で知った。

▼ 「中骨に薄く塩をし、約三〇分間ほどして塩で洗い流し、狐色に焼き上げ、擂鉢でごく微細な粉末に擂り上げ、細かい篩で漉す。蓋茶碗に、この粉末を茶さじ一杯ほど入れ、熱湯を注ぎ、桜の花の塩漬け一輪浮かす」。書き写すだけで、食欲がわいてくる、春の吸い物のできあがり。著者の魚谷常吉は、あの北大路魯山人と並び称された調理人だという。

▼ 4月から、ガソリンの値段が一時的に下がるものの、そのほかの商品、サービスの値上げラッシュが続きそうだ。特にバター、牛乳、めん類など、食品の価格上昇が、家計に与える影響は大きい。

▼ 経済アナリストの森永卓郎さんは、ギョーザ騒動のあおりで、価格が下落している冷凍食品や中国産食品をいとわなければ、食費を抑えることは可能だと、夕刊フジにコメントしていた。確かにそれぐらいの覚悟は必要かもしれない。

▼ かといって初めから、食の楽しみをあきらめることもなかろう。常吉によれば、桜鯛の骨のように思わぬ食材から、美味、珍味を引き出し、新しい料理を作り上げてきたのは、貧乏人の食通だった。もっとも、食通のなかで数が多いのは、「似而非通人」なのだが。

▼ 「新聞、雑誌、書物の上の研究と、人の口から伝わったのを食いもしないで盛んに吹聴する、料理道の破壊者である」。テレビのグルメ番組を加えると、まさに現代日本の食文化にあてはまる。この本が書かれたのは、二・二六事件が起こった昭和11年だというのに。

20/03/31 05:19

【産経抄】

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【正論】米本昌平 規範なしの排出量取引は危険

≪環境省のマスコミ対策≫

 地球温暖化対策の一つとして、温室効果ガスの排出量取引について日本でも本格的な議論が始まった。それ自体、大いに歓迎すべきことである。ただしその際、EU(欧州連合)の排出量取引制度について、これまでの評価を改める必要がある。

 最近までEU排出量制度は、唯一の先行モデルとして、これを絶賛する論調が圧倒的だった。導入するのは全くの善であり、それどころかいま認めなければ世界の趨勢(すうせい)に遅れるという論調である。だがこれは、マスコミに大量の好意的意見を載せさせて一気に政策を認めさせる、環境省の政治手法の産物である疑いが濃厚である。水俣病問題以来の「ムシロ旗作戦」と呼ばれるお家芸である。

 EU排出量制度は、欧州共通市場を所管する超国家的組織であるEUの指令に根拠を置くもので、国際法上も京都議定書が定める国際間の排出量取引に該当する。京都議定書に排出量取引があるのは、米国をつなぎとめるための妥協の産物であり、EUはこれに一貫して反対してきた。だが共通の環境税導入に失敗した後、EUは方向転換し、死文同然にあったこの条項を、EUの権限拡大の思惑も計算の上で導入したのである。確かに、EU指令の第1条には「費用効果的な方法で温室効果ガスの排出削減を推進する」とあるが、これは政策目標としてのお題目でしかない。

≪削減効果薄いEU方式≫

 平成17年から試行が始まったEU排出量制度に対しては、いくつか批判が出されている。第1に、排出量を無償で配分したため、参加企業にタナボタ式に財が転がり込み、売却益を得たり、時には削減を先送りした方が得になっている。第2に、排出量の配分は、EUと各国、各国政府と企業の2段階で行われるが、ほぼ要求通り配分せざるをえず、そのため慢性的な認可過剰となり、市場取引は低迷が続いている。

 第3に、東欧の新EU加盟国には緩い基準で排出量を配分したため、参加企業は削減のための投資をするよりはこれを買った方が安くつく状態にある。その結果、国別の削減義務は、民生や運輸部門など国民生活にしわ寄せがいくことになる。だが見方を変えると、これは冷戦後、東欧に対して行ってきた多額の援助を、温暖化対策の名目で電力会社などに肩代わりさせ、これによって京都議定書の仕組みをEUの新しい統治手段として活用することでもある。かりに京都議定書の約束期間以降、大幅な配分削減ができず、温暖化対策としては不発に終わったとしても、拡大EUの統治実績作りという国際政治上の理由は十分残ることになる。事実、東欧諸国は配分のされ方に不満でEU裁判所に提訴しているがこれを問題視する向きはない。

≪「証券化」の落とし穴≫

 つまり、現行のEU排出量制度は温暖化対策としては機能していない。実はその理由の一つは、欧州企業が排出量の正確なデータを政府に提出しないからである。この点、日本は企業と政府との距離感が小さく、驚くほど詳細なデータを提出している。だから、業界ごとに排出量を定め、第三者が仲介して排出量を相対売買することは、日本の方が格段に現実味がある。

 この事実を踏まえた上で、いま、われわれが真摯に議論すべきなのは、排出量取引の思想的・文明論的な側面である。温暖化対策の費用という経済の外部にあった因子を内部化するという意義は認めるとしても、そのことがただちに排出量取引をあまねく導入すべきだという主張につながるわけではない。

 そもそも排出量は正当な労働の対価として生み出されたものでなく、所有権の正当性が疑わしい財である。それ以前に、形の把握しにくい財であり、厳格な格付けなしに流通させるのは、あまりに危険である。かくも不安定なものを、資源の最適配分という市場万能主義にだけ寄りかかり、大規模な証券化を提案することの無神経さは、強く批判されてよい。

 温暖化対策のためには、市場機能をどのような論理と、どのような規模で近未来社会に組み込むべきか。この基本命題に取り組むべきなのだ。そして、慣れ親しんだ社会制度や価値体系と温暖化問題とを対峙させ、その費用をこれに織り込んでいく膨大な作業が待ち構えている。だからこそ一刻も早く地球環境問題のマルクスが現れ、現存する人々の間と、未来世代の双方に関して、負担が公正に算出できるような「新資本論」を書き下ろしてくれる必要がある。禁欲的な規範なしの排出量取引の導入は、サブプライムローン問題同様、地球環境と金融システムとを同時に不安定化させてしまう恐れ、大なのである。(よねもと しょうへい=東京大学先端科学技術研究センター特任教授)

20/03/25 05:31

【正論】米本昌平 規範なしの排出量取引は危険

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【産経抄】我が国に押し寄せる支那朝鮮のゴミ

 日本列島を吹き渡る風にはさまざまな名前がついている。「貝寄風(かいよせ)」もそのひとつだ。旧暦の2月、大阪湾の浜辺に西風が貝を打ち上げる。その貝殻で造花をつくり四天王寺の聖霊会に供えた。そんな由来からこの風を貝寄風と呼ぶようになったという。

▼ 転じて今ごろの季節に吹く強い西風のことを言い、春の季語となっている。中村草田男には「貝寄風に乗りて帰郷の船迅(はや)し」という、どこか心が浮き浮きしてくるような句もある。日本人、特に西日本の人たちにとっては生活に密着した風なのである。

▼ ところが最近ではこの西風が、ありがたくないものを運んでくる。沖縄では中国から流れてくるゴミがこの10年で13倍にも増えたという防衛大学校教授の調査があった。経済成長にゴミ処理が追いついていないのだ。日本海各地には塩酸などの入ったポリ容器が大量に流れ着いた。

▼ 海を渡る風ばかりではない。上空の西風に乗って、中国大陸奥地の砂漠や黄土地帯から黄砂がやってくる。今月初めには早くも各地で観測されたが、その飛来は年々多くなっているという。中国で家畜が増え草が減少し、草原の農地化が進んでいるせいらしい。

▼ この困りものに対処するため、気象庁は中国や韓国などに協力を求め、飛来ルートなどを予測しようとしている。だが中国が北京の観測データを公表しないから、黄砂の実態がよくつかめないという。中国側に言わせれば「気象は国家機密」だからだそうだ。

▼ ギョーザ中毒事件でも真相をベールに包んでしまう国である。インフルエンザについてもどれだけ情報を明らかにするか不透明だ。北朝鮮も含め何とも付き合いにくい国々を「風上」に持ったものである。貝寄風に吹かれながらそう思った。

20/03/09 06:01

【産経抄】3月9日

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